※この記事は令和4年3月に作成・公開したものです。

PROJECT STORY
「美味ぇがすと三陸 ─ Gastronomy SANRIKU ─ 構想」推進プロジェクト

三陸の食の魅力を世界に伝え、
新たに結んだ縁をつないでいく。

 東日本大震災津波から8年を経た、2019年6月。フランス随一の巨匠シェフであるオリヴィエ・ローランジェ氏やスペインのルシア・フレイタス氏など、国内外の著名なシェフたち約20名が宮古市に集結した。ここから「美味ぇがすと三陸 ―Gastronomy SANRIKU―構想」推進プロジェクトは幕を開ける。
 これほどの顔ぶれがそろうイベントは国内でも珍しく、どのような経緯で彼らは岩手に集まったのか。
 このプロジェクトから、どんな広がりが生まれたのか。仕掛け人である県職員たちの足跡を追った。

PROJECT MEMBER

  • 石川 一行

    1999年入庁
    農林水産部流通課
    6次産業化推進担当課長
    一般行政

  • 藤沢 哲也

    1994年入庁
    農林水産部流通課
    主任主査
    農学

  • 松浦 彩子

    2005年入庁
    農林水産部流通課
    主査
    農学

  • 伊藤 正和

    1988年入庁
    県北・沿岸振興室
    主任主査
    一般事務

  • 中村 千穂実

    2015年入庁
    県北・沿岸振興室
    主事
    一般事務

かの有名シェフたちが岩手に集結、三陸の豊かな食を世界に発信せよ!

 2011年3月11日、岩手県の沿岸部は地震による大津波で甚大な被害を受けた。以来、震災からの復旧・復興は、岩手全体の最重要課題。復興への道のりを歩む中、復興に取り組む地域の姿や、三陸の様々な魅力を発信する事業として、2019年から「三陸防災復興プロジェクト」がスタート。その主要事業となるのが、「美味ぇがすと三陸 ─ Gastronomy SANRIKU ─ 構想」推進プロジェクトである。
 三陸地域全体の振興を牽引する県北・沿岸振興室の伊藤主任主査は「震災によって大きな痛手を受けましたが、三陸には食やジオパークなど様々な魅力があり、もともとポテンシャルの高い地域。2019年から始まった三陸防災復興プロジェクトを契機として、そこから生み出される効果を継続的につなげ、国内外との交流を活発にしていくことが大きな狙いです」と意義を語る。
 この「美味ぇがすと三陸 ─ Gastronomy SANRIKU ─ 構想」推進プロジェクトは、ガストロノミー(美食術・食文化)の視点から、三陸の魅力や豊かな食材、食文化などを発信し、新たな三陸を創ることを目的とした事業。世界のシェフや専門家らが集まり、「三陸の食・海と環境」をテーマに情報を発信する「国際会議」、著名なシェフと岩手のシェフの連携により地元食材を使った創作料理が楽しめる「三陸美食サロン」、国内外のシェフを招いて産地視察を行う「三陸と世界をつなぐ『食』のキャラバン」など、大きく3つのプログラムで構成されている。

産地に出向き、食材の育つ環境を体感。シェフたちが驚いた三陸の魅力とは?

 「こうした世界的なシェフや専門家たちを集めることができたのは、キーマンとなる岩手のシェフがいたからです」と話すのは、プロジェクトを立ち上げた流通課の藤沢主任主査。震災直後から、岩手には世界中から支援が集まり、その中には炊き出しに駆けつけた著名なシェフたちがいた。彼らを案内し、活動をサポートしたのが、岩手県の「食のプロフェッショナルチームアドバイザー」を務める伊藤勝康氏である。料理業界に深いつながりを持つ伊藤氏のネットワークを生かし、岩手県がバックアップすることで、このプロジェクトが成立したのだ。

 国際会議に参加し、食のキャラバンで産地を訪れたシェフたちは、三陸の海の豊かさと岩手の生産者たちの技術を高く評価。これをきっかけに、日本人シェフの中には、自分の店で岩手の食材を取り扱う人が増えたり、岩手の飲食店と協働してオリジナルメニューの開発を行うなど、新たなつながりが多く生まれた。一方、生産者たちもシェフと交流することで、様々な気づきがあり、自分が育てた食材に対する自信を深めることにもつながったという。
 2019年に始まったこのプロジェクトは、2020年には第2回目の国際会議を開催し、世界的に活躍するピエール・ガニエール氏を始め、国内外のシェフが参加。第3回目の2021年はコロナ禍の影響により、やむなく国際会議は中止となったが、産地を視察する「三陸と世界をつなぐ『食』のキャラバン」のみが行われることになった。

人とのつながりを岩手の財産として交流から生まれる可能性を育てていく。

 2021年の視察先は、久慈市と洋野町。岩手県内のシェフやマスコミ関係者に加え、久慈工業高等学校の料理部の生徒も参加し、丸一日かけて生産地を巡った。「食材が生まれる背景にあるストーリーを知ってもらいたいと考え、山と海のつながりを意識した視察地を構成しました」と話すのは、食のキャラバンを担当した流通課の松浦主査。
 5ヶ所の産地を巡りながら、生産者たちの食材にかける思いを聞き、交流を深めた。
 プロジェクトを統括する石川担当課長は、「人の想いをつなぎ、人と人を結びつけていくことが、私たちの大きな務め。これまでの取組をきっかけに、県内の若手シェフたちが自分たちで産地ツーリズムを実施しようと動き始めています。このような民間の活動を支援しながら、地域振興につなげていきたいと考えています」と、今後を見据える。

 こうした食を中心とした動きは、三陸地域全体にも共通する。「支援していただいた方々との“つながり”を大切にすることが、復興のテーマ。これまでに生まれた新たなつながりを、途切れることのないよう深めていきたいですね」と、県北・沿岸振興室の中村主事。2021年に復興道路も完成し、沿岸地域の交通ネットワークは格段に進化した。これによって各地に点在していた資源をつなげ、沿岸市町村が連携したり、三陸全体で取り組んでいくことも容易になる。人と人との“つながり”を力に変えながら、岩手の挑戦はまだまだ続いていく。