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総合展示室
いわての今[生物分野]
展示品のご案内
ホンシュウジカ
イヌワシの山
紅葉が美しい季節となってきました。
北上山地南部に位置する標高1341mの五葉山は、美しい紅葉はもとより本州の北限といわれているホンシュウジカが生息する所としてもしられています。
五葉山は藩制時代から伊達藩の御用山として伐採(ばっさい)を禁止されていたため自然林が残りました。そのためシカをはじめとした動物達が生きのびることのできた貴重な場所でもあったのです。現在、県立公園として五葉山を中心としたシカの保護区が設定され、その周辺が鳥獣保護区に指定されています。
五葉山のシカは、明治の末から昭和初期にかけて乱獲(らんかく)により一時その数が激減し、絶滅の危機にさらされたこともありました。しかしその後の保護対策によって、ここ40年間増加の一途)をたどっています。最近では過密状態となり、保護区からあふれだしたシカが近隣の市町村にまで及び農林被害を及ぼすようにさえなっています。そのため県では保護区からあふれだしたシカの捕獲を認めています。捕獲数は年ごとに増加し、現在、年間1000頭以上にのぼっています。
その一方では、捕獲されたシカを調べることにより様々なことがわかってきました。シカの胃の中を調べたところ、シカの主食であるミヤコザサが年々少なくなり、栄養価の低い枯葉や樹皮が増加し、シカが本来あまり食べない針葉樹も認められました。つまりシカは食べるものがなくなり、植林されたスギやヒノキの樹皮も食べるようになっているということです。そのためシカの栄養状態も冬季は、かろうじて体力を維持)することができレベルまで落ちこんでおり、このまま増え続ければ餓死(がし)するシカがでてきたり、生息地域の環境の悪化や農林被害の一層の拡大が心配されます。こうしたことから県は現在6000頭まで増えたシカを平成8年には2000頭にまで減らす目標をもっています。
シカは繁殖力(はんしょくりょく)の高い動物です。本来の生態系(せいたいけい)ではその数のバランスが保たれるのは、オオカミなどの捕食者の存在があるからです。日本の野性動物は、もはや完全なる野性の生態系の中のものではなく、人間の手のはいった半野性的な環境の中でしか生きる道は与えられていないのです。従って、時にはオオカミを滅ぼしてしまった人間がオオカミの代わりにシカを一定数に減らしてやることも必要なことだということです。
シカに限らず、野性動物との共存を考えるとき、生態系に影響を及ぼす人間の力を自覚し、今後のとるべき行動を真剣に考えていくべき時ではないでしょうか。暮れゆく紅葉の山で悲しげに鳴くシカの声は、そんなことを訴えているようです。