2階
総合展示室
いわての今[生物分野]
四国四県に匹敵する広大な面積をもつ岩手県は、西に奥羽山脈、東に北上山地が南北につらなり、そのあいだに北上川低地帯が南北にひろがっています。この地形によって岩手県の気候や植生が区分され、さらに沿岸部では、複雑に交じりあう黒潮暖流や津軽暖流と親潮寒流の影響を受けています。
岩手県は気候的には冷温帯に属し、植生的にはブナ、ミズナラに代表される落葉広葉樹林帯となります。このため四季の変化に富み、いろいろな動植物が多様な生活をいとなんでいます。基本となる植生の特色を地域ごとにみますと、奥羽山脈は低温多雪の日本海沿岸型の気候に支配され、日本海側と共通する植物が生育しています。ブナ原生林がひろくのこされているほか、多雪気候にともなう高層湿原や雪田草原の発達がみられます。
北上川低地帯は温暖多雨の気候で、ふるくから開発が進み自然のままのこされている植生のすくない地域です。北上山地は低温小雪の気候で、地質的にふるい歴史を有するほか、蛇紋岩や石灰岩の特殊土壌に発達した植生に特色があり、なかでも早池峰山は固有種、貴重種のおおいことで知られています。沿岸地域は温暖な気候で、とくに宮古市以南は黒潮の影響を受け、暖温帯性植物の自生北限地がみられます。
岩手県は単に面積が広大なだけではなく、前述のように植生が変化に富んでいるため、そこに生息する動物も多種多様なものとなっています。県内にひろく生息するカモシカやツキノワグマなどの大型獣をはじめ、清流河川の動物や湿原の昆虫などのように局所的に生息する小型動物までひじょうに変化に富んでいます。さらに、食物連鎖の頂点にたつイヌワシが県内ひろく生息していることは、岩手の自然のゆたかさを何よりも雄弁に物語っています。
いっぽう海に目を転じてみても、寒暖両海流に生息する魚類や岩礁性の生物のおおいこと、それらを餌に生息している海鳥の豊富なことなど岩手県は水陸ともにゆたかな自然に恵まれています。
この「いわての今」と名づけられた総合展示室は、三つのサブテーマからなる「わたしたちの郷土いわて」と四つのサブテーマからなる「恵まれた自然」のふたつのテーマで構成され、わたしたちが岩手の自然をよく理解し自然との調和を保ちながら躍進、発展していかなければならないことを認識していただくことを目的としています。
展示品のご案内
ヤマネ
(森のいきもの)
ネズミに似ていますが、尾に長い毛が生える1属1種の独立種。平地から亜高山帯までの広葉樹や針葉樹の混じる森林にすんでいます。夜行性で樹上生活し冬は樹洞や落ち葉の中で尾をからだに巻き付け、球形になって完全冬眠します。天然記念物(国指定)。
イヌワシ
(イヌワシの山)
イヌワシは翼を広げると2mを越える大型の猛禽類で、岩手県では主に北上山地に生息します。生物多様性が豊かな広い森林と狩りがしやすい開放地の両方を利用し、ヤマドリやアオダイショウなどを捕食します。急峻な岩場や断崖に大きな巣をつくり、通常2羽の雛を育てますが、多くの場合1羽しか無事に巣立ちません。天然記念物(国指定)および国内希少野生動植物種。
ホンシュウジカ
(シカのすむ森)
茶褐色に白斑の目立つホンシュウジカは、シカ科の仲間でも特に美しいシカです。この模様は鹿子斑(かのこまだら)と呼ばれ、日本人に親しまれてきました。秋に白斑は消え、灰褐色の冬毛に換わります。岩手県の五葉山一帯は動植物の宝庫ですが、特にホンシュウジカの北限の生息地として知られています。
ゴヨウザンヨウラク(ツツジ科)Menziesia goyozanensis
ツツジ科の低木木で、現在のところ五葉山以外には確実な生育地が知られていない固有種です。五葉山には、キタゴヨウ、コメツガ、ネズコ、ヒノキアスナロなどが生育する亜高山帯植生が発達しています。ゴヨウザンヨウラクはウラジロヨウラクなどと同じヨウラクツツジ属に属し、6月下旬に開花し花の先が4つに裂け、花の上側が淡紅色、下側が黄緑色であるなどの特徴を持つ植物です。
ヒメコザクラ(サクラソウ科)Primula macrocarpa
早池峰の礫地に生育し、雪解け間もない6月に可憐な花を咲かせます。高さは10cm程度で日本のサクラソウ属の中で最小の植物です。かつては早池峰にのみ生育する固有種とされていましたが、岩手県内の蛇紋岩地の一カ所で生育が確認された北上山地の固有種です。
ハヤチネウスユキソウ(キク科)Leontopodium hayachinense
早池峰の風衝地の草原などに生育し、この花が咲くようになると早池峰は夏を迎えます。早池峰のシンボルとも言えるこの花は早池峰の固有種で、ヨーロッパ産のエーデルワイスに近縁な植物です。和名は、全体が綿毛に包まれている様子を、うっすらと雪をかぶった姿になぞらえたものです。