岩手県立博物館

岩手山を望める丘のミュージアム

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庶民のくらし[民俗分野]
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大漁バンテン


  • 長バンテン(万祝=マンイワイ)

  • 袖は扇に「大漁」
    背に「七福神が鰹(かつおを釣る」

  • 袖は「大漁」
    裾に「亀、松竹梅、大波に跳ねる鮪(まぐろ)」

 とても色鮮やかな長バンテン。これはどんな時に作られたものでしょう?
 これは、大漁の時にその記念として仕立てられた極彩色(ごくさいしょく)の着物で、船主が乗り手たちに配った「漁師の祝い着」です。この祝い着は、一般に万祝(マンイワイ・マイワイ)と呼ばれ、三陸沿岸(さんりくえんがん)では、長バンテン・ハンテン・カンバンなどと呼ばれています。背中や裾(すそ)には、おめでたい文様が多種多様に描かれています。藍(あい)染めの木綿地にカラフルな原色の型染めには、船主と乗り手の意思の通い合った大漁の喜びと願望の気持ちがこめられています。

 これを配る風習は、静岡県から青森県にかけての太平洋沿岸の漁村における独特のもので、江戸時代(1700年代のおわりごろ)から昭和30年代まで続きました。長バンテンには、紺系統の地に背型と腰型とよばれる文様が施されています。背型は背の部分に描く文様で空を舞う鶴などを背景に、長バンテンを発注)した網元(あみもと)あるいは船主の家紋や屋号が大きく朱で染め抜かれていて、その鶴がくわえる吹き流しなどに船名や漁撈>集団名や製作年代が記されています。腰型は裾の部分の文様で、松竹梅、七福神、宝船、浦島などが主にデザインされており、それらのなかで最も多いのが大漁文様です。漁獲の種類を具体的に絵や文字に表わし、鰯(いわし)、鰤(ぶり)、鰹(かつお)など大漁だった魚とカモメや大波を配して喜びにあふれた賑やかな図柄(ずがら)を描きだしています。
 また、長生きの願いをこめた鶴亀(つるかめ)の組み合わせもよくみられます。海という危険な場所を生活の舞台とする漁師たちは長寿(ちょうじゅ)のシンボルである鶴亀に松竹梅や波をデザインして大漁と安全を願ったのでした。長バンテンには、当時の漁撈活動の様子を示す様々な情報がこめられています。

 三陸地方の長バンテンは変化にとみ、地域的なものが存在します。両そでに「大」「漁」の文字を染め抜くのは三陸地方だけです。また、紺地(こんじ)に祭りのハッピのような腰丈(こしたけ)の短いハンテンは、三陸沿岸北部に多くみられます。宮古湾、山田湾周辺には、浅葱色(あさぎいろ=うすい藍色)を地に網模様を全身に施し、裾にさざ波に鶴亀を描いた独特な長バンテンがあります(一番上の長バンテンです)。同じように、大船渡から気仙沼にかけての三陸沿岸 南部には、三重格子(さんじゅうこうし)・井型格子(いがたこうし)など縞模様を基本にし、これに松竹梅・鶴亀などを抱き合わせているものが多くみられます。

 このような長バンテンも昭和35年頃には三陸沿岸から完全に消えてしまいました。しかし、その伝統と漁師の心意気は大漁旗に受け継がれています。


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