イヌワシの研究内容

 岩手県環境保健研究センターでは、イヌワシの現状を把握し、生態的特性を解明し、繁殖率低下の原因を探り、適切な保護策を実施するために、以下の調査・研究活動に取り組んでいます。
 
繁殖調査> (平成14年度〜)
 岩手県内に営巣地のある約30つがいの繁殖状況を詳しく把握し、毎年の繁殖成績を明らかにします。繁殖に失敗したつがいは、どの段階で失敗したのか、失敗の原因は何であったかを調べます。長期的にデータを蓄積し、年ごと、営巣地ごとの繁殖成績の傾向を分析することで、繁殖に影響する要因の解明を行ないます。
 調査はイヌワシの繁殖活動に影響を与えないよう十分注意しながら、巣の状態、親鳥の行動、ヒナの成長などを観察します。数多い営巣地をきめ細かく観察するために、地域で長年観察をされている方々の協力を得ています。

研究成果・関連情報

 →近年の繁殖結果

 日本生態学会大会2003

 日本鳥学会大会2023


<行動圏調査> (平成15年度〜)
 イヌワシがどのくらいの地域を活動範囲とし、どのような場所を餌場としているのかを明らかにして、環境の特性との関わりを解析します。また隣り合ったつがいとの関係を明らかにしたり、未確認のつがいや営巣地の探索も行ないます。
 調査はおもに眺めの良い場所で定点観察を行ない、出現したイヌワシの移動軌跡や行動を記録します。行動圏は広い範囲に及ぶため、大人数で複数の場所に分散して同時に観察し、それぞれの結果をあわせて行動範囲を明らかにしていきます。


研究成果・関連情報

 →日本鳥学会大会2007 要旨(PDF抄録集内に掲載)


移動分散調査> (平成14年度〜)
 日本のイヌワシの移動や分散については、まだほとんど解明されていません。また行動圏内の利用についても、目視観察のみでは限界があるため、なかなか詳細なデータが得られません。そのため、イヌワシに電波発信機をつけて放し、その移動を追跡調査します。調査にはポータブルのアンテナと受信機を用い、電波の届きやすい高い場所から個体のいる方向を測定します。この作業を複数地点で行なうことにより、方向の交わった点に個体がいることがわかります。また、人工衛星を利用した追跡システムも活用します。
 光学機器の発達で、近年は鮮明な個体写真を得ることも容易になっています。写真をもとに個体識別を行なうことで、撮影された場所間での移動を明らかにすることにも取り組んでいます。これまでに、
10〜47km規模の成鳥の移動や、数十〜200kmにおよぶ若鳥や幼鳥の移動事例が見つかっています。

研究成果・関連情報

 →幼鳥の移動についての結果

 →Journal of Yamashina Institute for Ornithology, 36: 22-27.

 →日本鳥学会大会2017 要旨(PDF抄録集内に掲載)

 →伊豆沼・内沼研究, 11: 67-74

 日本鳥学会大会2019


間伐による採餌場所整備効果の調査> (平成15〜18年度)
 イヌワシの繁殖を圧迫する原因の一つに、採餌に適した環境の不足が考えられます。手入れのされない茂った森林が増え、餌捕りに適した開けた空間が少なくなっています。そのため、イヌワシの採餌場所の増加を図ることを目的に、森林を列状に間伐する施業が行なわれています。
 このような間伐による効果を明らかにするため、施業区付近でのイヌワシの行動や餌内容の把握、ノウサギなどの餌動物の生息数等を調査します。この研究は科学研究費および21世紀COEプログラムなどの支援を得て、岩手県立大学、新潟大学等と共同で行ないました。


研究成果・関連情報

 →岩手県環保研センター年報 報文(PDF)

 日本鳥学会大会2004

 希少猛禽類イヌワシとの共存を目指した森林施業法の確立(科研費研究成果報告書)

 自然再生への挑戦. 学報社, 109-121.

 The Restoration of Nature in Japan. Tokai University Press, 99-109.

 →保全生態学研究, 12: 118-125.

 日本生態学会大会2006


横方向列状間伐による餌場供給効果の調査> (平成22〜25年度)
 森林施業で実施される列状間伐は、ほとんどが縦方向(斜面上下方向)に伐採されています。縦方向の伐採は、間伐材の搬出や作業上の利点がありますが、尾根に沿った飛行がよく見られるイヌワシにとっては、横方向(等高線方向)の伐採の方が餌場として効果的ではないかと言われていました。そのため、実験的に横方向の列状間伐を行ない、周辺でのイヌワシの行動や餌動物、植生の変化を調べます。この研究は、三陸中部森林管理署、東北鳥類研究所との共同で行ないました。


研究成果・関連情報

 平成22年度東北森林管理局森林・林業技術交流発表会

 平成24年度東北森林管理局森林・林業技術交流発表会

 →平成25年度国有林野事業業務研究発表会


ビデオカメラによる繁殖行動の調査> (平成16年度〜)
 目視観察によってイヌワシの行動を記録するには大変な労力が必要であり、また人が巣に近づくことによる影響も心配されます。そのため、イヌワシの巣にビデオカメラを設置して無人で撮影を行ない、繁殖行動を調べます。
 機材はイヌワシの繁殖期が始まる前に設置し、巣内の映像を繁殖期全体にわたって日の出から日没まで録画します。映像をもとに巣材搬入、抱卵、抱雛、雛への給餌などの行動を時間とともに抽出し、各行動の起きる頻度、継続時間などを求めます。こうした映像解析により繁殖に関わる行動を定量的に明らかにし、異なるつがいや年における繁殖経過と比較することにより、繁殖成功に必要な条件や繁殖失敗の原因を解明することができます。


研究成果・関連情報

 →ビデオ映像解析の詳細

 →岩手県環保研センター年報 報文(PDF)

 日本鳥学会大会2005

 →日本鳥学会大会2009 要旨(PDF抄録集内に掲載)

 第42回森林野生動物研究会大会

 →日本鳥学会大会2012 要旨(PDF抄録集内に掲載)

 
→日本鳥学会大会2016 要旨(PDF抄録集内に掲載)

 山階鳥類学雑誌, 55:1-12.



<営巣地の補修・改良効果の調査> (平成18年度〜)
 岩手県内には十分な岩のオーバーハングがない営巣地も多く、積雪によってイヌワシの繁殖活動が妨げられる事例がみられます。また、巣にツキノワグマ、テン、ハクビシンなどの動物が侵入する事例も確認されています。このほか、樹木の繁茂により巣への出入りに支障のある営巣地や、土台が小さく巣材が落下してしまう営巣地もみられます。
 このため、巣に雪よけの屋根、動物の侵入防止柵、人工土台を設置したり、出入り空間を確保するため樹木を伐採するなどの保護事業を実施しています。補修、改良した営巣地について、その後の利用状況を長期的にモニタリングします。

研究成果・関連情報

 →第13回自然系調査研究機関連絡会議 要旨(PDF要旨集内に掲載)

 →日本生態学会大会 2010 要旨


<遺伝的多様性の調査> (平成22年度〜)
 野外でイヌワシの羽根、ペレット、卵殻、糞などを採集し、そこから遺伝子を抽出してミトコンドリアDNAの型やマイクロサテライトの多様性、近縁度の解析等を行なう研究を、京都大学野生動物研究センターと共同で実施しています。


研究成果・関連情報

 →7th International Conference on Behaviour, Physiology & Genetics of Wildlife 要旨(PDF抄録集内に掲載)

 →日本生態学会大会 2011 要旨

 →日本生態学会大会 2016 要旨

 →日本生態学会大会 2017 要旨

 →Biological Conservation, 213: 175-184.

 →日本生態学会大会 2018 要旨

 第24回日本野生動物医学会

 →日本生態学会大会 2019 要旨

 →日本生態学会大会 2021 要旨

 →Ecological Research, 36: 815-829.


  <営巣適地の調査> (平成28年度〜)
 イヌワシの保護を考えるうえで、どのような営巣環境を必要としているかを知ることはきわめて重要です。イヌワシの営巣地周辺の植生や地形を衛星画像や地理情報システムを用いで定量化し、回帰モデルによって明らかにする研究を、横浜国立大学と共同で実施しています。

     研究成果・関連情報

 Raptor Research Fundation 2017 Conference

 →日本生態学会大会 2018 要旨