巣内映像による繁殖行動の解析結果

  繁殖期間を通じて録画されたイヌワシの巣内の映像を解析すると、さまざまな繁殖行動の特性を明らかにすることができます。
 これまでに解析された3つがい、10繁殖期の映像から得られた知見の概要を紹介します。
 
 産卵前の着座行動
  イヌワシの繁殖行動は、早い場合は10月から始まり、枝などの巣材を巣に運び入れて整えます。この時期に、巣の上(産座)に座り込んで動かなくなる行動がみられることがあります。外部からは卵を抱いているように見えますが、産卵には至っていないため、「産卵前着座行動」と呼んでいます。
 着座がみられるのは11月からの場合もあれば、産卵が近くなった1月からの場合もあり、一定しません。造巣期間中の20〜65%の日で確認されています。座っている時間も日よって大きな差があります。平均すれば1日に数分から数十分の行動ですが、長い時は1日に合計6時間以上座っていたという例があります。ほとんどが雌にみられる行動ですが、雄が行なうこともたまにあります。


    

産卵前に巣に座る親鳥
 
 産卵日・産卵時間
  イヌワシの産卵を直接観察する機会は滅多に得られませんが、ビデオ映像からは多数の産卵事例を解析することができます。
 イヌワシは通常2個の卵を間隔をおいて産みます。第1卵の産卵日は1月下旬〜2月下旬で、これまで確認した11例の平均では2月7日でした。2卵目の産卵はほとんどの場合、1卵目の4日後になりますが、まれに3日後だった例もあります。1卵目が破損したため、2卵目の4日後に3卵目を産み足した事例もあります。
 産卵はほとんどが夕方に行なわれます。第1〜3卵を含めた16例でみると、最も早い例で14時33分、最も遅い例で17時28分、平均は16時9分でした。


    

産みこまれた卵(左)と産卵日と産卵時刻の変異(右)
 
  抱卵日数・孵化日
  産卵が行なわれるとすぐに抱卵が始まります。産卵から雛が誕生するまでの日数(抱卵日数)は42日間の場合が最も多く(7例)、43日間が5例、41日間が3例あります。44日、45日間かかった事例も1回ずつみられました。第1卵の孵化の平均日は3月19日です。

 

抱卵中の親鳥
 
 育雛日数・巣立ち日
  雛が誕生してから巣立ちするまでの日数(育雛日数)にはばらつきが大きい傾向があります。解析したなかで最短は71日(5月15日に巣立ち)、最長は96日(6月16日に巣立ち)でした。6例で平均すると、育雛には約83日かかっていました。

 

孵化してまもない雛
 
  抱卵・抱雛時間
  卵や雛がまだ小さいうちは、親鳥は腹の下に抱いて温めてやります(抱卵・抱雛)。この行動がみられた時間を記録し、毎日の変化をみることで、抱卵期・育雛期の状況を客観的に把握することが可能になります。
 右下図は、雌親および雄親による抱卵・抱雛時間の典型的な変化の例です。繁殖が順調であれば、図のように抱卵はおもに雌が行ない、雌が巣を出ている1〜2時間には雄が交代するというパターンが見られます。抱雛はほぼ雌のみが行ない、雛が大きくなるにつれ時間は短くなっていきます。
 餌が捕れないなどの理由で雄が戻ってこないと、雌は卵や雛を抱くのをやめて長時間巣を出てしまいます。そのような状況が起きているかどうか、この図をつくることで把握できます。


    

雛を抱く親鳥(左)と日中の抱卵・抱雛時間の変化の例(右)
 
 餌の種類
  雛が誕生すると、親鳥は給餌のため餌を巣に運んできます。その餌動物の種類や運び込む頻度がわかるのも映像解析の利点です。
 これまでに撮影した全ての映像から、257点の餌の持ち込みが確認されました。判別できなかった餌を除いた233点のうち、哺乳類は120点(52%)で、ほとんどがノウサギでした。鳥類は64点(27%)でヤマドリが多くを占めました。ヘビや魚類の利用もそれぞれ36点(15%)、13点(6%)ありました。
 つがいによって、または年によって、持ち込む餌の種類は変動します。下図のように、ノウサギ(51%)とヤマドリ(37%)だけでほとんどを占めていた例もあれば、ノウサギ(27%)やヤマドリ(12%)は少なく、ヘビ(42%)が多かった例もあります。

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ノウサギを食べる親子(左)とつがいや年によって変動する餌の構成(右)
 
 給餌頻度(食餌率)
  餌不足によって雛が巣立ちできないつがいが増えていると考えられるなか、雛が毎日どれだけ餌を食べているかを定量的に示すことはとても重要です。イヌワシは食事の開始と終わりが明確にわかるため、この食事時間を映像から計測することで、毎日のおよその摂食状況を解析することができます。
 1日のうち雛が餌を食べていた時間(親からの給餌と自らの摂食の合計)の割合を食餌率といいます。持ち込まれた餌を食べ尽くしてしまうと、食餌率は下がっていきます。下図の例では食餌率に深い谷間がいくつかみられ、育雛期にしばしば餌切れが起きていたことがわかります。34〜35日齢の時には、2日間の絶食もありました。雛が小さいうちは、3日以上の絶食があると死亡してしまう確率が高まるようです。


 
雛の食餌率の変化