森林性大型猛禽類の採餌環境改善の取り組みとその課題

 2008年日本鳥学会自由集会 開催報告
 
  2008年9月13日に東京・立教大学で開かれた日本鳥学会大会において、「森林性大型猛禽類の採餌環境改善の取り組みとその課題: 列状間伐のより効果的な施業を目指して」と題する自由集会を開催しました。列状間伐の事例やその効果、餌動物への影響などについての最新の知見を、6名の話題提供者に講演して頂き、また、環境および林野行政の担当者やNGOの専門家にもご参加願い、それぞれの立場からコメントを頂きました。会場には120名を超える参加者が集まりました。
 企画趣旨および話題提供者の講演要旨(PDFファイル:約1MB)はこちらで見ることができます。→PDFファイル閲覧
 
 自由集会の概要
 
1. 集会名
 森林性大型猛禽類の採餌環境改善の取り組みとその課題〜列状間伐のより効果的な施業を目指して

2. 開催日時
 2008年9月13日(土) 18〜20時

3. 開催場所
 立教大学 11号館 AB01教室

4. コーディネーター
 前田 琢 (岩手県環境保健研究センター)

5. 話題提供者と演題
 飯田知彦 (広島クマタカ生態研究会)
  「クマタカの繁殖率低下と行動圏内の森林構造の変化との関係」
 高橋 誠 (猛禽類保護センター活用協議会)
  「東北地方におけるイヌワシ等のための森づくり活動事例と課題: 列状間伐を中心に」

 阿部聖哉 (電力中央研究所)
  「植生から見たノウサギの生息環境: 秋田駒ケ岳の調査結果を中心に」
 関島恒夫 (新潟大学)
  「イヌワシの採餌環境創出と列状伐採の効果: 北上高地の調査結果から」
 辻村千尋 (日本自然保護協会)
  「イヌワシ・クマタカを象徴とした森林生態系の保全管理: 赤谷プロジェクトの紹介と最近の繁殖状況、森林整備との関係」
 梨本 真 (電力中央研究所)
  「森林生態学視点からみたイヌワシの採餌環境創出のための列状伐採: 採餌環境植生の目標設定と順応的管理の重要性」

6. コメンテーター
 西山理行 (環境省自然環境局野生生物課長補佐)
 藤江達之 (林野庁関東森林管理局計画部長)
 平野均一郎 (林野庁東北森林管理局計画部長)
 関山房兵 (猛禽類生態研究所所長)
 横山隆一 (日本自然保護協会専務理事)

7. 企画者
 高橋 誠 (猛禽類保護センター活用協議会)
 前田 琢 (岩手県環境保健研究センター)
 根本 理 (日本猛禽類研究フォーラム)

8. 集会の内容
 主催者からの企画趣旨説明に続き、6名の講演が行なわれた。飯田知彦氏は、広葉樹林から針葉樹人工林への転換や幼齢植林地の減少によって、広島県のクマタカの繁殖成功率が低下していることを解説し、採餌環境不足の現状を紹介した。続いて高橋誠氏は、東北地方ほかで実施されているイヌワシのための森林施業の事例を紹介し、とくに山形県・鳥海山麓における取り組みの成果と課題を提示した。
 阿部聖哉氏は、秋田駒ケ岳や北上高地での調査結果に基づき、イヌワシ、クマタカの餌動物として重要なノウサギが好む植生環境を明らかにし、そうした環境を維持するための森林管理の重要性を提示した。関島恒夫氏もノウサギに注目し、北上高地での列状間伐後3年間の継続調査から、列状間伐地がイヌワシの狩場として機能していくためには、伐採後の下層植生を予測した施業が重要であると強調した。
 辻村千尋氏は、森林管理署や地元とともに群馬県・赤谷の森で行なっている生態系保全プロジェクトについて、イヌワシ、クマタカへの間伐の効果や課題を示し、分野横断型の研究の必要性を提言した。最後に梨本真氏は、異なる列状間伐地や雪崩跡地における植生の経年変化の事例に基づき、植生や哺乳類など多分野の専門家との協力や、事前アセス、モニタリング、順応的管理の重要性を説き、また既存の動植物への悪影響回避について指摘した。
 講演を聞いたコメンテーターや参加者からは、猛禽類だけでなく森林の生物全体を考えることが重要であること、猛禽類の危機的状況を考えると対応を早く実施していく必要があること、林業やその他の産業とも関わりを持ちながら進めていくことなどについて発言があった。林野行政関係者からは、森林施業との共存を図りつつ採餌環境改善の取り組みを進めたいとのコメントがあり、環境行政関係者からも、一連の取り組みを評価する発言があった。
 最後にコーディネーターが、間伐施業の方法、生物多様性との関係、モニタリング方法などについての課題を整理しながら、列状間伐の取り組みを拡大していくために各方面からの協力が不可欠であり、これからも関係者の理解や支援をお願いしたいと総括し、閉会した。