イヌワシ保護のために

 <イヌワシの指定状況>
 希少なイヌワシを守るため、イヌワシは種の保存法による国内希少野生動植物種に指定され、個体の取り扱いや生息地の開発に関して規制があります。また、環境省による保護増殖事業の対象とされ、営巣場所の改修・整備、ヒナの移入、繁殖モニタリングなどが行なわれています。また、国の天然記念物にも指定されています。
 イヌワシは環境省レッドリスト(2012年)で、近い将来に野生での絶滅の危険性が高い「絶滅危惧IB類」にリストされています。また、いわてレッドリスト(2014年版)でも、絶滅の危機が増大している「Aランク」に区分されています。
 
 

→いわてレッドリスト(2014年版)
→いわてレッドデータブックweb版
 
 <イヌワシ保護施策>
 イヌワシ保護のためには、イヌワシの生活を圧迫している要因を解明するとともに、イヌワシが将来的に存続していけるかどうかを予測するためのさまざまな情報を集める必要があります。まだ十分な調査が行なわれていないのが現状ですが、これまでの知見や事例、推定される要因をもとに保護策を策定し、その効果を検討しながら実施していく必要があります。
 岩手県では「野生生物保護対策事業調査報告書(イヌワシ生息状況調査)」のなかで、以下のような保護施策方針を示しています。
 
  ・営巣地一帯の保護管理: 営巣場所の補修、巣場所の人工設置、大径木の育成、狩猟・開発規制など
・行動圏および餌動物の保全: 自然林の保護、二次林や人工林内への疎開地の創設、下層植生の育成など
・開発事業との調整: 生息地の回避、工事期間の短縮・調整、騒音等の低減など
 
 <イヌワシ保護のための森林管理>
 イヌワシの繁殖率低下の主要な原因は、採餌に適した開放的環境が不足していることによる餌不足です(→イヌワシの危機的現状も参照)。このため、森林を間伐する際に樹木を列状に伐る「列状間伐」という方法を用いることで、イヌワシが採餌できる空間を増やす試みが全国で進められています。
 岩手県では「希少野生動植物保護対策事業」のなかで、自然保護課、林業振興課、森林整備課、森林保全課が協力し、イヌワシの行動圏内で列状間伐を促進するよう取り組んでいます。
 
   列状間伐によってイヌワシ、クマタカなど森林性の大型猛禽類の採餌環境を改善する方策について、2008年日本鳥学会大会で自由集会が開催されました(2008年9月13日)。→開催報告のページ
 
     

列状間伐した森林
 
 <イヌワシ営巣地の補修・改良>
 イヌワシの繁殖が失敗する原因には、餌不足によると考えられるもの以外にもさまざまな例が確認されています。大雪により産座が埋まってしまい、抱卵できなくなってしまう事例や、土台が安定していないため巣が落下してしまう事例もあります。また、ビデオカメラで巣内を撮影していると、捕食者となりうる哺乳類(ツキノワグマ、テン、ハクビシンなど)がたびたび巣に侵入している事実も明らかになってきました。
 イヌワシは条件の良い営巣地であれば何十年にもわたって使用しますが、樹木の成長によって巣の付近の空間が閉ざされると、出入りがしにくくなって使わなくなってしまうことがあります。たまった巣材の量が多くなりすぎて、巣の上部の空間が不足し、使えなくなる事例もあります。
 以上のような自然の作用による繁殖失敗や営巣地の放棄はやむをえないものではありますが、繁殖率の著しい低下が続き、絶滅が危惧される種にあっては、こうしたリスクについても可能な限り縮小させるための支援が必要です。
 こうしたことから、岩手県内の各営巣地において、必要性の高い場所から順次、以下のような補修、改良作業を進めています。
 
・雪の積もりやすい巣の上部に雪よけの屋根を設置。
・哺乳類の侵入が見られた巣について、柵や板、有刺鉄線などで侵入路を遮断。
・巣材が落下した巣において、新たに丈夫な土台を設置。
・樹木やつる植物に覆われた巣の付近の植生を整理し、出入り空間を確保。
 
     

雪よけの屋根(左)  人工巣台(中)  巣の前の樹木を除去(右)