形態 |
殻は黒褐色で細長く、殻質は堅く、腹縁の中央部がややくぼんでいる個体が多い。成貝の殻長は10〜15cmほどで、コガタカワシンジュガイに比べると大形である。また、左殻内部の前閉殻筋痕の形状が丸い耳状をしている点でコガタカワシンジュガイと区別できる。 |
分布の概要 |
本県中部以北の多くの河川に広く分布するほか、やや飛び地的に北上市、陸前高田市でも生息が確認されている。おそらく、本県北部は、本州において最もカワシンジュガイの分布が濃密で、かつ個体数が多い地域である。 |
生育状況 |
最高水温が20℃を超えない、水質のきれいな流水中で、砂礫や石礫質の河床に殻を半分ほど埋めて直立した状態で生息している。流水中のバクテリアなどの有機物などをろ過摂食していると思われる。個体群の大きさは、場所によって幅があるが、一般にコロニー状に密集して生息していることが多い。 |
生存に対する脅威 |
大規模な河川改修工事にともなって、河床から多数の個体が排除された事例が示すように、人的な攪乱が大きな脅威となる。最近は、タナゴ類の人工繁殖用の産卵母貝として多数採取された事例など、採集圧が本種個体群に与えるダメージが懸念される状況にある。また、本種にとって、グロキディウム幼生の寄主となるヤマメ(サクラマス:削除)の存在は必須で、寄主の生息密度が再生産に大きく影響している。カワシンジュガイは長命な種であるため、ヤマメが少ないか、あるいはほとんどいない川に大形個体ばかりの集団があったとしても、その見かけの健全性とは裏腹に、再生産あるいは世代の更新がなされないまま緩やかに絶滅に向かっている危険性が高い。 |
特記事項 |
安家川のカワシンジュガイは、岩泉町(2010年)と野田村(2011年)によって天然記念物に指定された。これは、安家川の本種個体群が豊かな環境の指標であり、かつ優れた自然資産であることを示すと同時に、近年の無軌道な採集圧から本種を守るための措置でもある。また、コガタカワシンジュガイが発見され、両者の関係などが注目されている。このような実情を踏まえ、今回の改訂ではランクを上げてリストしている。 |
文献 |
近藤高貴(2007)日本産イシガイ目貝類図譜. 日本貝類学会特別出版物3号
竹内 基・佐竹邦彦・中村 学・菊池憲明(2007)岩手県における淡水二枚貝類の分布と現状. 岩手県立博物館研究報告24:15-32. |
写真 |
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