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イトヨ淡水型
トゲウオ目トゲウオ科
Gasterosteus aculeatus aculeatus (Linneus);fluvial form
岩手県:Aランク        環境省:絶滅のおそれのある地域個体群

形態 成魚は全長8cmほどで、回遊型より小形であるが、体側の鱗板が完全なトラクルス型である。背びれに3本、腹びれに1対の長く鋭い棘があり、背びれ棘の鰭膜が回遊型より広いのが特徴である。通常は銀白色だが、産卵期の雄はのどから腹部にかけて鮮やかな赤橙色が現れ、背の青みが増す。成熟した雌は、抱卵のため腹部が大きく膨れる。
分布の概要 釜石市、大槌町、岩泉町で生息が確認されている。
生育状況 釜石市では現在まったく確認できない。大槌町の湧水池は最大の生息地であったが、震災以降個体数が激減した。生息場所にはがれきが散見され、水質を含め環境の劣化が目立ち、再生産も減少している。岩泉町でも、近年湧水の減少が目立ち、こちらも数年前と比較すると個体数の減少が顕著である。
生存に対する脅威 生息地の環境悪化が最大の脅威である。道路工事や河川改修工事にともなう生息環境の攪乱には慎重な配慮が必要であろう。また、今後の保全を図るうえで、生息地の湧水の減少に対する抜本的な対策を真剣に考える必要がある。一方で、ごく最近大槌町の沿岸被災地では、回遊性のイトヨ日本海型と湧水池から流出したと思われる淡水型との間で交雑が起きているとの報告がある。淡水型を取りまくこれらの動向には今後とも注意が必要である。
特記事項 遡河回遊性のイトヨ太平洋型から派生した河川性集団である。イトヨ太平洋型はカワヤツメと同じく、過去に何度となく河川性あるいは陸封性の集団を生み出してきたものと推察される。このような視点から、淡水型はイトヨ類の進化を探るうえで非常に貴重な集団である。大槌町では、湧水池の個体群を天然記念物に指定し、町を挙げて保全に取り組んでいるが、何より被災後の生息地の環境回復が急がれる。
文献 樋口正仁(2003)日本列島周辺のイトヨ属魚類の遺伝的多様性と分化. 後藤 晃・森 誠一(編)トゲウオの自然史−多様性の謎とその保全−,pp.40-60. 東海大学出版会.
森 誠一(2013)津波震災を乗り越えた大槌町のイトヨ. 魚類学雑誌60(2);177-180.
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