岩手県立農業試験場研究報告第29号 摘要

農産物マーケティングのための情報処理システム化に関する研究
 第1報 農産物マーケティング戦略と情報の体系化
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小川 勝弘
1.農業情報とは、農業経営をおこなっていく上で不確実性を減少させるための、組織化されたデータを分析したもので、農産物の生産コストを低減させたり、農産物販売金額を増大させ、農業所得を向上させるのに役立つものである。

2.農産物マーケティング意志決定支援システムは、農作目問の比較有利性の検討、農産物の高付加価値化、農産物の有利販売に有益な情報を提供し販売金額を増大させ農業所得を増大させるのに有効な情報処理システムである。

3.岩手県の農業関係機関でニーズが多い農業情報は、1位気象・災害の予測情報、2位農産物の市場情報、3位農産物の需要動向の情報、4位病害虫発生予察と対策情報、5位長期気象データの情報、6位作物の生育情報、7位作物の栽培技術情報、8位管内の各種農業統計の情報、9位農産物の販売情報、10位土壌・施肥診断・施肥情報である。

4.農業情報へのニーズは、各農業関連機関の位置づけ、役割を反映し、機関別に大きな違いがある。これは情報が持つ「情報価値の主観性」の特性によるものである。

5.今後、岩手県で開発する農業情報処理システムは、コンピュータの利用段階に位置づけてみると「不確実性のもとでの各種情報の活用段階」となる。

6.農産物マーケティング戦略立案上必要となる情報は、現在公表されている情報を体系的に収集することでかなり収集可能である、そしてその情報のほとんどが、すでに岩手県以外の機関でデータベース化されている。

7.新聞情報は、マーケティング環境の分析には効果的である。標的市場分析に関しては消費者のトレンドを把握するには効果があるが、所得に関しては統計数値情報による補完分析が必要である。競争構造分析に関しては各県の地方紙が重要な情報源にはなるものの、生産計画、販売実績については、産地調査と統計情報の分析を併せて行う必要がある。マーケティングミックス構築のためには、製造政策、販売促進政策に関する記事はよく掲載されるが。価格政策、場所政策に関する記事は掲載されにくいので、産地調査、市場調査を併せて実施する必要がある。

8.農産物マーケティング戦略は、企業マーケティングと同様、(1)農産物マーケテイング環境分析、(2)診標的市場の選定、(3)本県競争ポジショニング分析、(4)マーケティング目標の設定、(5)マーケティングミックスの構築、(6)計画の進行管理、(7)計画の評価のサイクルをとる。但し卸売市場流通の場合、価格政策は、コスト政策と出荷調整政策に制限される。

9.農産物マーケティング意志決定支援システムに必要な機能は、外部データベース利用機能、データベース機能データ加工・表計算機能、統計解析・数理計画機能、グラフ作成機能、モデルベース機能、補助的機能、ワープロ機能である。
農産物マーケティングのための情報処理システム化に関する研究
 第2報 岩手県産ほうれんそうのマーケティング戦略
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小川 勝弘
1.消費動向(標的市場)
 1)食の洋風化・サラダ化の進展により、ほうれんそうの年計での消費量は減少しつつあり、特に世帯主の年齢が40〜44才以下の若年層で減少が大きい。
 2)消費の周年化にともない、7、8、9月ではほうれんそうの需要が増加している。
 3)8、9月は消費者が価格に対して弾力的な購入反応を示すため、価格が低下すれば需要は増加し購入金額が増加する。
 4)関西地方はほうれんそうの購入金額が他地方よりも多い。

2.競争構造
 1)岩手県の市場シェアが高い6、7、8月は、岩手県の卸売価格は、他県の卸売数量の増減による影響を受けない。
 2)茨城県産ほうれんそうは周年にわたり需要が増加するとともに、近年生産量が急増しており動向に注意する必要がある。

3.新製品開発方向(製造政策)
 1)6、7、8月は今後供給増により供給過剰になる見込みが強い。9月は販売金額が極大になる卸売数量までには、今しばらくは供給量の余裕が続くとみられる。10月は供給  が減少し卸売数量に余裕が出てくるとみられる。
 2)岩手県は、気象特性を生かし9、10月の出荷量を増加させた方が有利である。
 3)生食用ほうれんそうの開発により新たな需要の獲得が可能とみられる。

4.技術目標(価格政策)
 1)岩手県産ほうれんそうの増産目標を、農家の所得が極大となる出荷量までとした場合(推定市場価格654円/kg)、現行の技術体系の生産コストでは、2次生産費を賄うための下限出荷数量は269kg/10aとなる。

5.市場選択(場所政策)
 1)農家手取り金額を増加させるためには、8月では東京市場が過剰気味なので、東京中心の分荷から、仙台、横浜、川崎、名古屋、大阪へと広範囲に分荷すること。また5月〜10月の期間では名古屋市場、大阪市場への参入が農家手取り金額の増額と安定化に効果がある。

6.販売促進政策
 1)健康維持機能のPRとポパイの活用が消費宣伝に有効と考えられる。

7.留意事項
 1)今回の分析は、おもに過去のデータの分析にもとづいた傾向分析であり現在の需要供給構造を前提としている。したがって画期的な新品種の開発によって需要が急激に増加した場合や、大幅な技術革新によって供給構造が変化したり、新産地が急激に参入してきて競争構造が大幅に変化した場合にはあてはまらない。
 2)今回の分析は、市場統計等の統計資料の分析に基づいた総論的な情報である。したがって実際に出荷する場合は、出荷先の荷受け会社と需要のある時期、時期別の販売可能量、時期別販売可能価格、荷姿、規格、到着時間等についてつめる必要がある。
農産物マーケティングのための情報処理システム化に関する研究
 第3報 岩手県産りんどうのマーケティング戦略
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小川 勝弘
1.消費動向(標的市場)
 1)家計調査における農産物購入金額の伸びでは、切り花が最も大きい。
 2)世帯主の年齢が高いほど切り花の購入金額が多い。
 3)近畿地方が切り花の購入金額が多い。
 4)切り花の購入金額は、所得との相関が高く所得が1%増加すれば切り花の購入金額が1.8%増加する。
 5)切り花りんどう・鉢物りんどうとも市場規模は拡大しつつあり、特に9・10月の秋に拡大程度が大きい。

2.競争構造
 1)岩手県が東京以西の市場を開拓している問に、他の東北産地が北・東日本で出荷量を増加させている。

3.新製品開発の方向(製造政策)
 1)切り花りんどうと鉢物りんどうは、競合関係にないので、りんどうの生産を切り花と鉢物の生産に分化させることによって、市場細分化による新たな需要の獲得が可能である。
 2)切り花りんどうでは、スプレータイプ商品、自然回帰商品、多色化商品の開発により新たな需要の獲得が可能、特に早い作型では多色化したりんどうの商品開発が有効である。
 3)鉢物りんどうでは、ギフト用の大型鉢の開発、コンビニエンスストア用の小型鉢の開発が有効である。
 4)近年岩手県の作型は早生化がすすんでいるが、9、10月に出荷する作型を開発し、出荷ピークを8月から9月に移動させることが必要である。

4.技術目標(価格政策)
 1)過去の市場価格の最低価格(25円/本、昭和63年東京8月)でも採算が取れるためには、10a当り36,000本の出荷数量が必要である。

5.市場選択(場所政策)
 1)切り花りんどうの出荷量を増加させた場合、8月の東北、北越、関西、中国、9月の北海道、甲神静、中国、四国、10月の東京、中国、関西の時期及び地域では、販売金額総額が減少する。
 2)鉢物りんどうの出荷量を増加させた場合、9月の関東、中国、10月の東北では販売金額の総額が減少する。
 3)出荷数量に余裕があるのは、8月では、九州、関東、北海道、四国、9月では、東京、関東、10月では甲神静、北越、東北、関東、四国である。

6.販売促進政策
 1)りんどうの販売促進のためのネーミングは、青色系は年間を通して一つに統一すること、ネーミングは消費者に分かりやすく商品のイメージが浮かぶようなものがよい。
 2)消費拡大のために配布するりんどうは、家庭到達率を高める方策が必要である。
 3)産地PRのために、りんどう祭り等のイベントを開催しマスコミへの情報発信機能を高める必要がある。

7.留意事項
 1)今回の分析は、おもに過去のデータの分析に基づいた傾向分析であり現在の需要供給構造を前提としている。したがって画期的な新品種の開発によって需要が急激に増加した場合や、大幅な技術革新によって供給構造が変化したり、新産地が急激に参入してきて競争構造が大幅に変化した場合にはあてはまらない。
 2)今回の分析は、市場統計等の統計資料の分析に基づいた総論的な情報である。したがって実際に出荷する場合は、出荷先の荷受け会社と需要のある時期、時期別の販売可能量、時期別販売可能価格、荷姿、規格、到着時間等についてつめる必要がある。
大規模水田作経営における合理的部門組み合わせ・作業計画に関する分析
 −線形計画法による接近−
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長森 克之
 県内では水田を基盤とした大規模経営が形成されつつあるが、これらの経営では水稲、転作、作業受託などの複数部門をかかえる他、高能率な機械・施設を装備し、また、多くの雇用労働を擁する事例が多い。そのため複数の作物を合理的に組み合わせ、機械労働に応じた作業編成を策定することが、安定的な収益を確保する上で重要な課題となっている。

 本報告ではこのような問題意識を背景に、県南部で大規模な転作受託を行っているS農産をモデルとして、その合理的な部門組み合わせ・作業計画を主として収益性、土地利用、機械・施設の稼働、オペレーター・補助者の労働配分などの視点から現実的な線形計画モデルを開発し、各種のシミュレーションを行うことによって、受託型大規模経営の今後の経営展開を支える経営管理の望ましい方向を分析した。

 モデルの開発に当たっては、大規模経営の経営構造を忠実に再現するため、制約式、プロセスの単位を細かく設定するとともに、技術係数も労働係数をオペレ一夕ーと補助者別に分けたほか、機械の作業能率からの制約についても考慮した。大規模経営の経営構造を忠実に再現可能とするためのモデルは、一般的には大規模になるため、既存のプログラムでは効率的な分析が難しいことから、データの入力、計算処理などを効率的に行う大規
模経営の経営計画検討を対象にした、線形計画システムの開発を併せて行った。

 分析対象としたS農産は、80ha近くにも及ぶ転作受託を行っているが、地域における農業労働力の減少を背景に、地域の水田農業の担い手としてより一層の積極的な経営展開が期待されている。しかし、その経営部門は多岐にわたり、雇用労働も多く経営管理上の様々な問題を抱えている。また、経営展開の方向も農業情勢が不透明であるため必ずしも明かでない。本報告では、線形計画モデルを用いて、複雑な現状の作目編成、作業計画の合理的なあり方を検討するとともに、今後の経営展開を検討する上で必要となる基礎的情報を提供するため、モデルを用いた各種のシミュレーションを実施した。得られた成果の概要は以下の通りである。

 1)現状の転作受託の形態では、約104haまで経営規模を拡大することが可能である。この段階で特に制約となるのは、9月の小麦・大麦の耕起〜播種期のトラクタと10月下旬から11月上旬にかけての大豆収穫の汎用コンバインの利用競合である。なお、更に規模拡大をはかる場合は、トラクタを新たに追加することが必要となるが、この場合の限界収益は投資を上回り投資効果は大きい。また、規模拡大にあたっては、小麦・大麦の最大の作業ネックとなる耕起〜播種までの作業方式の改善をはかり、効率的な作業体系を確立することが重要である。

 2)水田貸借の可能性については、転作助成金が現在の水準をやや下回った段階までは、水田の借地を選択し、全面的な転作を行う土地利用が有利となることが明らかとなった。転作助成金が更に低下した場合は、水稲の作付割合を増加させ、助成金が10,000円以上であれば、水田を借地し、その内の50%以上を転作をした方が有利となる。また、助成金が10,000円以下に低下した場合、水田の借地よりも現在のような転作受託を増加することが逆に有利となる。現在の利益水準と比較すると、現在の利益水準を確保するためには、転作助成金が低下していく場合は、同水準が1万円程度までは水田貸借が可能となる。また、現在の助成金が続くものと仮定して、借地料を上げていく場合は、借地料が50,000円位までは現状の利益を上回る。

 3)営農モデルのシミュレーションから直播技術が現実の経営で採用されるための課題、技術開発の方向を大胆に検討した。直播技術の課題を整理すると、第1は、移植体系と同程度の収益を確保することである。この場合の直播体系の収量水準は移植体系(510kg)の約96%となる。第2は移植体系と組み合わせて直播体系を採用していく場合は、両体系の播種時期の作期調整が重要となる。また、直播体系のみで規模拡大をねらう場合は、初期生育を確保する技術の開発や更に品種開発なども含め、作期拡大につながる技術開発が必要である。第3は代掻作業の効率化を含め、耕起〜播種に至る一連の作業を体系的に処理する技術開発がより一層必要となる。第4は収穫時期の作業競合を回避する方向での播種時期・品種による調整や、新たな直播体系の作型開発までを含めた技術開発が必要である。
 なお、水田貸借に関する分析結果は、積極的な借地の可能性を示すものであるが、これは借り受け側(S農産)からの分析が中心であるため、今後は貸付者側からの水田貸借の条件を把握するとともに、S農産自身についてもその場合の土地利用方式の検討が必要である。
 以上の分析結果は、あくまでもS農産の分析より得られたものであるが、ここで得られた情報は同様に大規模経営における合理的な経営管理方式を検討する上で貴重なものである。また、本研究で開発した大規模経営の線形計画モデルは、その数値を変更することにより容易に他の大規模経営へ適用することが可能である。
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