岩手県立農業試験場研究報告第26号 摘要

寒冷地における畑地かんがい栽培技術
 第 I 報 黒ボク土における灌水基準
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宮下慶一郎・千葉 行雄・斎藤 博之
1.降雨遮断装置付きの精密囲場(黒ボク土、淡色黒ボク土、花崗岩風化土 各4区画)において、潅水効果の確認と潅水基準策定のための試験を実施した。

2.生育初期の潅水は、従来とられてきた播種・定植直前の潅水だけでは不十分である。特に、本県に広く分布する黒ボク土は、土壌表層の乾燥化が進みやすく、初期生育確保のためには播種・定植後の潅水の効果は大きいと考えられる。

3.当面求められている畑地かんがいの効果は干ばつによる減収防止の効果であることを前提に、過去の干ばつ年を再現する方法を用いて、潅水効果の検討をした。

4.潅水効果の現われ方は、作物の種類や生育時期あるいは土壌の種類によってことなるが、全般的に生育初期に干ばつに遭遇する条件下での潅水効果が顕著であった。

5.干ばつ処理がなされた場合でも、生育の重要な時期に適度の水分供給(おおよそpF2.5維持。ただし、生育初期を除く)があれば干ばつの影響が少ない。

6.以上の結果をもとに、生育初期における潅水基準、およびミニセルリー、レタス、ピーマンの潅水基準を策定した。
岩手県南部の転換畑における土壌畑別小麦施肥法 → 全文はこちら(822KB)
小野 剛志・高橋 康利・神山 芳典・折坂 光臣・新毛 晴夫
1.県南分場の沖積土、柏原の重粘土、和賀の礫質黒ボク土転換畑での小麦生育特性と、各品種での施肥法を検討した結果、土壌型が小麦生育に大きく影響し、また土壌型と品種により施肥法も大きく異なることが分かった。

2.作土、下層土とも良好な沖積土での小麦生育量は最高となり、穂数も十分確保されるので、倒状の危険が高いナンブコムギでの施肥は一穂粒数増をねらう減分期等の後期重点が必要とされた。しかしハチマンコムギでは高肥沃沖壌土といえども、その多収性が基肥増及び追肥量と回数増の多肥によって達成された。

3.一方下層土不良地帯の重粘土や礫質黒ボク土での低収原因は、穂数、全重等の生育量の不足にあった。そのため、厩肥や土改材による土壌改良と共に、多回追肥により生育量増大を計る必要があった。特に和賀の礫質黒ポク土では年内の養分消耗が激しいため、播種後1ケ月以内の年内追肥が増収のために有効であった。
水稲の出葉特性と出穂の予測 → 全文はこちら(402KB)
泉川 澄男・畠山 貞雄・佐々木忠勝・畠山 均
 ハヤニシキ(稚苗・中苗・畑成苗)を用いて出葉速度(1葉出葉する必要日数)と気温との関係を解析するとともに、幼穂形成期及び出穂期の予測方法について検討した。

1.出葉速度は最高気温と負の相関があるが、温度反応からみると出葉転換期を境に前期と後期の2つの回帰式に分けられる。

2.出葉転換期の葉数は稚苗が9葉期、中苗は9〜10葉期、畑成苗は10〜11葉期の間と推定され、最終葉数が多いほど転換期の葉数も多い傾向がみられる。

3.出葉転換期と生育ステージの関係をみると、畑成苗では穂首分化期にあたるものと推定されるが、稚苗・中苗ではさらに1葉程早い時期と推定される。

4.前期と後期の同一温度における出葉速度を比較すると後期が大きく、その比は稚苗でみると19℃で1.4倍、27℃で1.9倍と高温ほど大きくなっている。

5.出葉速度の温度反応を苗の種類別に比較すると、後期はどの苗も同じ回帰式が適用できる。前期では稚苗と中苗は同じであるが畑成苗の回帰式は異なる。

6.任意の調査日間の葉数の予測は苗の種類にかかわらず、葉数と調査日間の最高気温を従属変数とする重回帰式を用いて行うことが可能である。

7.幼穂形成期葉数と最終葉数の差は苗の種類にかかわらず約2.2葉であり、葉数を幼穂形成期の指標として位置づけることができる。

8.幼穂形成期の予測方法として2つの方法がある。1つは葉数と最低気温を用いる方法で、稚苗と中苗は7月5日葉数と7月6〜10日の最低気温、畑成苗は6月25日葉数と6月26〜30日の最低気温を従属変数とした重回帰式から予測することができる。もう1つは移植後の平均気温を用いる方法で、稚苗と中苗では7月5日まで、畑成苗では6月30日までの平均気温を従属変数とする単回帰式から予測が可能である。

9.幼穂形成期から出穂期まで日数はその期間の平均気温と高い負の相関があり、また苗の種類にかかわらず同じ回帰式が適用できることから、これを用いて幼穂形成期から出穂期を予測することが可能である。
農山村における地域農業組織化の研究 −住田町の地域農業組織化を事例として− → 全文はこちら(643KB)
齋藤 恭
1.本報告は「地域農業」の再編を担う主体の形成及びその機能と活動の手順を住田町の農業再編の取り組み事例をもとに、実証的に明らかにしようとしたものである。

2.同町の農業再編過程から、地域農業再編には、(1)市町村の農業関係機関の合意形成のもとに、その組織化を図り農家への指導、援助の一元化を図ること、(2)個別経営の綿密な現状分析と営農改善計画が策定されること、(3)営農改善計画実現のため的確な投資、技術革新、マーケティングが行われること、(4)町・農協等の呼びかけに答え経営改善を図ろうとする意欲的農業者相互の連携を深め生産意欲を高め、かつ、技術・経営能力の向上を図るため農協作目別部会組織を充実すること等が重要であることが明らかになっている。

3.農業振興の核となるのは経営改善意欲の高い専業的な農業者であるが、このような農業者だけの取り組みでは農業振興の限界があり、これが個別農家及び集落間の生産力格差の拡大や全体的な生産停滞となって現われる。この解決には「ムラ」を視点に入れた振興方策の確立が求められ、そこでは少資本、軽労働で高齢者、婦人層も栽培が可能となる作目を導入し、生産を活発化することが必要である。そのため、生産者の組織は、農協段階では主に専業的な農業者の高度な技術・経営能力を高める生産部会の活動が、集落では、それら専業的農業者の支援のもとに高齢者・婦人層が日常的な栽培技術を習得するとともに生産意欲の向上が図られる集落生産部会等の組織活動が求められる。

4.市町村の農業振興組織の機能を発揮するためには、組織を構成する職員で地域農業振興の活動に専念するプロジェクトチームを編成し、農業振興のための現状分析、計画、投資、技術革新、マーケテイング及び農家の組織化等が整合性をもって行われるようにチェックする機能を確立することが重要である。

5.集落の農業振興主体は、市町村、農協の支援のもとで、農業個々の具体的な経営目標とその実現のために必要となる農家相互の補完結合関係を明らかにし 集落を構成する農家それぞれの営農の確立が可能となる集落システムを形成することが重要である。
モジュール方式による技術体系設計システムの開発 → 全文はこちら(682KB)
田中 裕一
 経営改善を進める上で必要となる技術体系の作成と費用試算を簡易かつ高精度に処理することが可能なパーソナルコンピュータ夕利用システムを開発した。

 処理の基本方式として、設計・組立てを標準化するための基礎となる最小の構造単位であるモジュールを相互の最適化を図りつつ連結して部分系を設計し、さらに部分系を統合して全体としての系を設計するモジュール方式を採用した。
 モジュール方式を有機的生産を対象とする農業経営設計に適用するためには、設計の対象とする部分系の範囲と設計の最小構造単位であるモジュールの大きさが問題となる。本システムでは部分系を育苗・耕起などの部分作業体系の範囲とし、モジュールを個々の農作業工程程度の大きさとする事により、モジュール選択の自由度と整合性を確保した。

 次に統合化された技術体系において投下労働時間や資材投入量などの技術係数や費用を計算する上で、その処理方式とともにモジュールに付与するデータが問題となる。本システムでは、各モジュール上のデータを処理して個々の作業毎に作業名、作期、投下労働、使用農具及び投入資材等を出力するとともに資材種類別に投入量を積み上げ、同時に投下労働時間を旬別に積み上げてこれらの結果を技術体系表として出力し、一方で大農具、小農具及び資材の名称を媒介として価格データと連動させて費用を計算する方式とした。

 以上の処理を行うためにBASIC言語を用いたプログラム19種類を作成し、コンピュータとの対話方式で処理を選択して行う方式とした。
 データの作成上必要とされる地域条件として県中央部を想定し、機械施設選択の自由と整合性を保つ上でトラクターの能力区分を基本とする農機具構成を定めて26作目のデータを作成した。

 水稲を事例として技術体系組み立て及び費用計算処理について説明した。
 県中央部を対象に手作業により既に作成されている5ha規模の稲作中型機械化一貫体系の指標とシステムの処理により作成したほぼ同一の技術体系と比較した。
 投下労働時間を10a当たりで比較すると、指標49.2時間、システムによる処理37.5時間であり指標より24%少ない。主な差の要因は人力で行う除草及び潅排水管理作業の見積時間の違いである。さらに費用構成を比較すると農機具費に大きな差を生じたが、これは指標は主要な農幾具を作業受託等で効率的に利用する前提で計算したことによる。これらの差を補正すると処理結果はほぼ一致し、処理方式はおおむね妥当と判断される。

 今後システムの適用範囲を拡大し処理効果を高めるには、モジュールを多数準備すべきであり、本システムで取り上げなかった設備系と生産物の処理系を取り入れるように改良することが望まれる。
岩手県北ヤマセ地帯における大豆の生育反応と品種選定 → 全文はこちら(414KB)
茂市 修平・宮下慶一郎
 地域プロジェクト研究「ヤマセ常襲地帯における農作物の安定生産技術の体系化」の1課題「ヤマセ地帯における大豆の品種選定」の中で、岩手県の主要品種を用いて、種市町・軽米町両地点における生育経過を調査し、ヤマセ地帯における大豆の生育反応について検討した。また、東北各県の奨励品種を供試し、ヤマセ地帯における大豆の品種選定についても検討した。得られた結果の概要は以下のとおりである。

 1.ヤマセ強地帯の種市町における生育量は、ヤマセ弱地帯の軽米町に比較し、著しく少なく、その生育速度も非常にゆるやかである。

 2.特に、L・A・I、T・D・Wは30〜50%程度で推移しており、高温年であった59年のナンブシロメの最繁期のL・A・Iでさえ4程度であり、生育量不足は顕著である。

 3.乾物生産能力も種市町で明らかに劣っており、生長パラメーターの推移も、ヤマセ吹走の影響で生育量不足になっていることを裏付けている。

 4.各調査項目別の軽米町に対する種市町の減少程度は、主茎節数。一莢内粒数および百粒重で小さいのに対し、主茎長・m2当り稔実莢数・a当り子葉重で大きくなっており、m2当り稔実莢数の減少が低収の大きな要因となっている。

 5.58年のようなヤマセ気象の卓越年には、概して早生品種ほど低収で、晩生品種ほど多収となりやすい。これは、早生品種の栄養生長期間とヤマセ吹走期間がほとんど完全に重複し、生育抑制が激しいのに対し、晩生品種は栄養生長期間の長さによって、ヤマセ吹走後の気象条件の回復とともに生育量を増大・確保できることに起因している。

 6.両地点の生育反応の格差は、明らかにヤマセ吹走によるものであるが、特に種市町での最高気温の低下が著しく、大きな要因と考えられる。

 7.種市町などのヤマセ強地帯では、密植栽培することによって、単位面積当りの葉面積や乾物重の増大がはかられ、安定収量が期待される。

 8.以上のことから、ヤマセ強地帯における大豆の生育反応は。ヤマセ吹走により生育抑制が甚しく、生育量も極端に不足し、m2当り稔実莢数等の大幅な減少により常に低収を余儀なくされていることから、北海道で一般に用いられている大豆の冷害タイプのひとつ、生育不良型の冷害と言える。

 9.長期異常低温に見舞われた58年について、13品種26項目のデーターを整理した結果、ヤマセ吹走中の生育量よりもヤマセ吹走後の生育量の方が収量と深く関係していることがわかった。

10.主成分分析法によると、第1および第2主成分によって約70%の情報が説明され、第1はヤマセ吹走後の生育・収量因子あるいは早晩性因子、第2主成分はヤマセ吹走中の生育因子あるいは耐冷性因子と考えられた。

11.また、これによって供試13品種が概そ4つのグループに分類でき、第1グループの極早生〜早生品種のワセスズナリ等は狭義の耐冷性を有するが、結果として低収になりやすいこと、第2グループの中生〜中晩生品種のナンプシロメ等は耐冷性小であること、第3グループの中晩生〜晩生品種のスズカリ等は、ヤマセ吹走後の好的気象条件を有利に生かし、結果として多収を示すことからヤマセ地帯に対する適応性が高いと考えられること、第4グループの極晩生品種ミヤギシロメは、第3グループに類似した生育反応を示すが、熱期・品質等で実用的でないことなどが明らかになった。

12.以上のことおよび3カ年の収量性等から判断して、第3グループのスズカリ、オクシロメをヤマセ地帯に適する品種として選定した。なおスズカリは岩手・青森両県において、60年度に奨励品種として採用された。
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