岩手県農業研究センター研究報告(報文)第17号 摘要

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リンゴ栽培における重要害虫であるシンクイムシ類の識別とナミハダニの遺伝的構造に関する分子生物学的研究 → 全文はこちら(2.37MB)
羽田 厚
 リンゴ栽培において、果実を直接加害するシンクイムシ類と、葉への吸汁加害が著しく、かつ薬剤抵抗性の発達により防除が難しいハダニ類には、特に重点的な防除対策が必要とされている。本研究は、これら重点防除害虫の岩手県内における分布・加害状況および地域個体群の遺伝的構造を分子生物学的手法によって解析し、リンゴ生産現場における防除作業のより高度な体系化、高効率化を目指す際に必要となる基礎的知見を得ることを目的とした。

 日本国内において、リンゴを加害するシンクイムシ類は主にシンクイガ科のモモシンクイガCarposina sasakii (Matsumura)、ハマキガ科のナシヒメシンクイGrapholita molesta (Busck) およびスモモヒメシンクイGrapholita dimorpha Komaiの3種であるが、これら3種のシンクイムシ類の若齢幼虫を形態的特徴から見分けることは困難である。そこで、ミトコンドリアDNAのcytochrome oxidase subunit I (COI) 領域の1,342bpの塩基配列を決定し、3種のシンクイムシ類を識別できるPCRプライマーを作成した。作成したプライマーを用いたMultiplex PCR法では、複数の地点から採集した野外個体および飼育個体を確実に識別することが可能であった。ナシヒメシンクイによる果実被害事例は確認されなかったことから、現在も野外採集個体を用いた識別調査を継続中であるが、岩手県におけるナシヒメシンクイによるリンゴ果実への加害は極めて少なく、まれな事例であると推測された。本研究で設計したプライマーを用いたMultiplex PCR法は、害虫の発生予察や被害解析や輸出検疫の場面においても、迅速かつ確実にシンクイムシ類を識別できる有効な手法であると考えられる。

 ナミハダニTetranychus urticae Kochは様々な農業品目を加害する害虫であるが、薬剤に対する感受性低下事例が多い難防除害虫でもある。岩手県内各地のリンゴ園地においても、複数の殺ダニ剤に対して感受性の低下したナミハダニ個体群が生息している。この薬剤感受性低下個体群が県内に広く分布している原因として、1)種苗生産圃のようなある特定の地点で出現した薬剤感受性低下個体群が、苗木等を経由して県内各地に広がった、あるいは 2)各園地に生息する地域個体群から、個別に薬剤感受性低下個体群が出現して優占したという2通りの仮説が考えられた。そこで、殺ダニ剤の使用体系が異なる地点から採集したナミハダニ11個体群 (商業的リンゴ園地から8個体群、試験用リンゴ園地から1個体群、リンゴ種苗生産圃から1個体群、ホップ園地から1個体群) を供試し、それらの個体群構造について4遺伝子座のマイクロサテライトDNAをマーカーとして解析し、薬剤感受性低下個体群が県内に広く分布するに至った過程を考察した。商業的リンゴ園地とリンゴ種苗生産では定期的に化学合成殺ダニ剤が散布されており、試験用リンゴ園地では移植後殺ダニ剤は散布されていない。ホップ園地では気門封鎖作用の殺ダニ剤が散布されている。供試した11個体群はすべて遺伝的に独立しており、有意な距離による遺伝的隔離が確認された。また、供試した岩手県内で唯一の種苗生産圃に由来する個体群は、遺伝的に他の個体群と独立していた。このことは、薬剤感受性低下個体群が苗木等を経由して県内各地に広がった可能性が低いことを示していた。また、化学合成殺ダニ剤を散布している園地に由来するナミハダニ個体群の近交係数は、殺ダニ剤を散布していない園地や気門封鎖作用の殺ダニ剤を散布している園地に由来するナミハダニ個体群より高かったことから、化学合成殺ダニ剤の散布はナミハダニ個体群に強いボトルネック効果を引き起こし、速やかな薬剤感受性低下の一因となっていることが示唆された。従って、殺ダニ剤に対する感受性低下個体群の出現を遅らせ、薬剤コストを抑え、高い防除効果を得るためには、園地ごとに定期的に薬剤感受性をモニタリングし、効果の高い殺ダニ剤のみを優先的に使用する方法が優れていると考えられた。また、薬剤感受性低下個体群が出現することのない気門封鎖作用の殺ダニ剤を効果的に用いたハダニ類の防除方法の開発も、今後の課題の一つである。
水稲新品種「金色の風」の育成 → 全文はこちら(2.68MB)
太田裕貴・佐々木 力・菅原浩視・小綿寿志・仲條眞介・小舘琢磨・藤岡智明・阿部 陽・野々上慈徳・阿部(川代)早奈恵・神崎洋之・松村英生・寺内良平
 「Hit1073」は、2005年に「ひとめぼれ」に突然変異処理を行い、2009年から2011年にかけて、アミロース含有率が「ひとめぼれ」より2〜3ポイント低く、食味官能評価の高い系統として選抜したものである. 「金色の風」は、2010年に「コシヒカリ」を超える晩生の極良食味品種の育成を目標として、岩手県農業研究センターにおいて「Hit1073」を母、「ひとめぼれ」を父として人工交配を行い、その後代から選抜育成された品種である。「金色の風」は、2015〜2016年の奨励品種決定調査において晩生の主食用良質極良食味品種として有望と判断され、2016年10月に品種登録申請を行い、2017年2月に岩手県の奨励品種として採用された。「金色の風」は、出穂期、成熟期とも「ひとめぼれ」並の“晩生の中”に属する岩手県中部及び南部で栽培可能な品種である。草型は“偏穂数型”で、耐倒伏性は「ひとめぼれ」並の“やや弱”、障害型耐冷性は“強”、いもち病真性抵抗性遺伝子型は“Pii”と推定され、圃場抵抗性は葉いもちは“やや弱”、穂いもちは“中”、登熟期の高温耐性は“やや弱”である。収量性は「ひとめぼれ」より低収である。食味は、「ひとめぼれ」並から優り、柔らかさと粘りが特長である。アミロース含有率は、「ひとめぼれ」より2〜3ポイント低く、アミロペクチン単位鎖長分布は、短鎖比率が高く中長鎖比率が低い。

 本県の水稲品種の極良食味品種として、(一財)日本穀物検定協会実施の「米の食味ランキング」で「ひとめぼれ」が特Aを獲得してきた県南地区「ひとめぼれ」栽培地域内2,000haでの普及が見込まれる。
大吟醸用酒造好適米新品種「結の香」の育成 → 全文はこちら(1.13MB)
仲條眞介・佐々木 力・菅原浩視・阿部(川代)早奈恵・木内 豊・田村和彦・宍戸(中野)央子・高草木雅人・阿部 陽・遠藤(及川)あや・神山芳典
 「結の香」は、岩手県でも栽培可能な「『山田錦』並みの醸造特性をもつ酒米品種の開発」を育種目標として、岩手県農業研究センターにおいて、「青系酒140号(後の『華想い』)」を母、「山田錦」を父として2002年8月に人工交配を行い、その後代から選抜育成された品種である。2005年、F5世代(単独系統)から岩手県工業技術センターにおける醸造適性に関する調査を開始した。2006年からは生産力検定試験、特性検定試験に供試するとともに、岩手県工業技術センターや岩手県酒造組合による試験醸造を行い製成酒の官能評価を開始した。2008年に「岩手酒98号」の系統番号を付し、奨励品種決定試験に供試して有望と認められた。

 「結の香」は心白発現率が「吟ぎんが」、「ぎんおとめ」に比べて低いが、小さい心白が粒の中央に位置する割合が高い。このため、精米歩合40%の高度精白に対する適性が高い。40%精米して醸造した製成酒の官能評価は「山田錦」と同等以上である。

 熟期は「吟ぎんが」より遅く、岩手県の熟期では“晩生の晩”である。稈長は「吟ぎんが」より短い。障害型耐冷性と耐倒伏性は“やや弱”、いもち病真性抵抗性遺伝子型は“+”と推定され、圃場抵抗性は葉いもちが“弱”。穂いもちは“やや強”である。m2当たり籾数が少ないため、収量性は「吟ぎんが」に劣る。

 「結の香」は岩手県の気象条件下で栽培可能な大吟醸酒用の酒造好適米であり、岩手県中南部(紫波町以南)での普及が見込まれる。2012年に品種登録申請し2014年に登録された(登録番号 第23454号)。
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