一冊の本になるまで
冬の報告書つくり




平泉遺跡群調査事務所
▲柳之御所遺跡の事務所(名称:【平泉遺跡群調査事務所】)

斉木君のつぶやき

 雪が降ってきたぁ〜♪ほんのすこしだけぇれどー・・・♪ ブルブル!うー寒いっすよねー。冬になると柳之御所遺跡では外での発掘作業もおやすみするっす。遺跡も雪の下。春のひざしを浴びてタンポポの花が咲くまで柳之御所遺跡よ、さらば!と、思いきや、冬は冬でちゃんと大事な仕事があるんっすよ。それはおうち(平泉遺跡群調査事務所)のなかでの報告書づくり。野外でとった写真や図面を整理したり、掘り出した土器やいろんな製品の絵をかいて、一冊の本にするっす。つまり柳之御所遺跡では、「こんなものが出てるぞー」つうのを世間のみなさんにお知らせするためっすね。この本のなかに、汗と鼻水と涙?を流して発掘現場で記録した大事なデータと、こつこつとかいた土器や木製品などの絵がぎっしりつまっているんっす。それじゃあ、一冊の本ができるまで、発掘冬物語のはじまり、はじまりー。                              



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その1  こわれたものを修理する


▲土器の破片をくっつけているところ
ジグソーパズルより難しい‥
 発掘現場から掘り出された土器やいろんな製品(まとめて遺物(いぶつ)と呼ぶ)は無傷なものもありますが、たいていはこわれてます。だから、冬に事務所のなかに入ったら、まずはじめに遺物の修理。バラバラになった土器の破片をセメダインでくっつけることからします。でも相手は昨日や今日割ったお茶碗とはちがいます。長ーい年月の間に土器の破片がそちこちにちらばったり、昔のひとが、何個もの土器を一つの穴に捨てることもあるのです。そうするとどの破片がどの土器のものなのか判別するのは大変!似たような色や形をたよりにくっつきそうな破片をジグソーパズルのようにさがすのです。でもこのパズル、ピースはそろっているかどうかわからないし、何種類もひとつの箱にはいっているという、そんじょそこらのパズルより頭の体操になるんですよ。





その2   遺物の絵をかく


▲お皿をはかって正確な図を
かいているところ
   お絵かき大好き?
ジクソーパズルのつぎは、お絵かきです。出土したものの中から形のあまりこわれていないもの、珍しいものをピックアップして報告書にのせるために図をとります。いろんな種類の定規を駆使して、遺物ひとつひとつを方眼紙にかいていきます。模式図なので、写真みたいな絵とはちがいますが、土器の特徴などがわかりやすいように書いてます。絵のほかにも模様のある土器などは”拓本”という魚拓のようなものをとります。学校の美術の授業を一日中しているようなものですね。お絵かき大好き!という人には楽しい仕事かもしれません。でも、去年の発掘調査で九百枚以上のかわらけの絵をかいたときには、さすがにためいきばかり聞こえていました。


▲遺物をはかる道具類






▲かわらけの実測図


▲渥美産陶器の拓本


その3  清書(トレース)する

トレース中
▲息をとめて真剣勝負でトレース中

  こつは息をとめてスーっと・・・
上の方眼紙にかいた絵はいわば下書きのようなもの。こんどはその絵をきれいに清書します。(トレースといいます)下書きの上に半透明の紙をのせてペンでなぞればはいできあがり。でもこれがけっこうきんちょうするんです。えんぴつのように消しゴムでかんたんに消せないからなるべく一発勝負でスーっとペンを動かします。ペンの太さもいろいろ変えて見やすい図に仕上げます。漫画家さんのペンいれのようなものですね。遺物のほかにも、野外でかいた図面もトレースします。 







▲上のかわらけをトレースした図


その4   レイアウトする

貼り付け中
▲トレースした図を貼り付けているところ
レイアウトはセンスで・・
 図ができあがったら、いよいよ仕上げの段階です。ここで、ページの中に図をうまく並べる、”レイアウト”という作業をします。台紙にトレースした遺物や遺構の絵や写真を貼り付て図版というものをつくります。漫画家さんの原稿みたいなものですね。説明書きや表のはいるスペースも考えて、センスよくレイアウトします。いきなりベッタリはるのではなく、まず、“はってはがせるテープ”で仮貼りします。これでOKとなったら、透明テープ、両面テープ、スプレーのりなどでしっかり本貼りします。あとは汚れないようにできあがった図版のうえにうすい半透明の紙をかカバーとしてつければ完了。これに調査員の先生や、柳之御所遺跡を研究してらしゃるいろんな分野の学者さんの論文をつけくわえればいよいよ本のできあがり、あとは印刷屋さんにおまかせです。




これが柳之御所遺跡の報告書だー!

▲柳之御所50次報告書表紙



* おわりに *

 発掘事務所の冬いかがでしたか?柳之御所遺跡の発掘調査はこのようにして一冊(大がかりな調査だと数冊になることもある)本にまとめあげられます。みなさんも、どこかで発掘調査の報告書を見かけることがあるかもしれません。そのときは、ぜひ手にとってページをひらいてみてください。難しい専門用語や暗号のような記号がぎっしりで、はじめはとっつきにくいかもしれません。でもそこにかかれている図ひとつひとつが手作業でかかれていて、またその図をとるために、真夏に炎天下でも発掘しているのです。
 発掘の集大成ともいうべき本なんですね。発掘調査をするとそれまでなぞだった人々の生活のあとが見えてくることがあります。なかにはなんのためにあるんだろう?、と首をひねるものもでてきます。遺跡の解釈のしかたは、時代やひとによってかわってきます。21世紀のひとが、“こうだ!”といった学説が数世紀後にはかわるかもしれません。
 でも、そういうのをひっくるめて、とにかく今できるかぎりのちからで正確に遺跡を記録していこうという努力が報告書になるのですね。平泉やその近くの小学生、中学生のみなさんの中にはおじいちゃん、おばあちゃん、おかあさんなどが発掘の仕事にいっているというかたもいるでしょう。じつはそういう人たちの仕事がこの本の中に記録としてつまっているんですよ。さいごに、協力してくださる地域の方々に心から感謝します。