10.不適正処分の再発防止

1 本事案からの教訓、再発防止策

 第三者的立場から本事案に係る県の行政対応が適切であったかを検証するため、「県境産業廃棄物不法投棄対応検証委員会」を設置し、委員会から行為者に対する収集運搬業の更新許可の違法性などについての指摘や再発防止の徹底に向けた5つの対応方針が提示された。
 岩手県では、この対応方針に基づき、次のような取組みを進めてきた。

(1) 関係機関との連携の強化

 本事案に係る原状回復及び排出事業者等の責任追及を環境省と連携しながら進めているほか、国に対し、新たな制度創設を提案(投棄された県が一方的に経費負担することがないような制度など)するなど、再発防止のための新たな枠組みづくりを働きかけていた。
 また、北東北三県で合同パトロールによる県境地域の監視強化、ヘリコプターを使用した合同スカイパトロールによる空からの監視強化を図っているほか、北東北三県が連携し、同一内容で「県外産業廃棄物の搬入に係る事前協議等条例」及び「産業廃棄物税条例」を制定することにより、広域的な取組み体制の整備を図った。
 さらに、出先機関である各地方振興局毎に、地方振興局、市町村、関係団体を構成員とする「不法投棄ネットワーク」を構成しているほか、希望する市町村へ産業廃棄物処理施設への立入権限を付与するなど、市町村と共同して各地域の不法投棄の監視を強化した。

◆スカイパトロールによる監視状況(空中写真)

(2) 危機管理の徹底と職員研修の改善

 本庁の担当部署に出先機関の監視、指導業務を支援する専担組織を設置しているほか、各出先機関に産業廃棄物適正処理指導員(通称「産廃Gメン」)を配置し、不法投棄対策に係る体制を強化してきた。
 また、廃棄物の監視・指導に係る研修会に、県職員のみならず市町村職員も参加するほか、実務担当者による監視指導の実践方法等をカリキュラムに加えるなど、より実践的な研修内容へと見直しを進めた。

(3) 早期発見・早期対応の徹底

 休日等における監視指導を強化するため、平日のみならず、土曜日、日曜日及び祝日における産業廃棄物処理施設等への立入調査のほか、深夜、早朝における監視活動も実施している。

(4) 行政処分等の積極的な公表

 行政処分を行った場合には、被処分者名、処分内容等について、従来行っていた報道機関への情報提供に加え、随時県のホームページに情報を掲載するなど、より積極的な公表に努めたほか、住民の関心の高い事案については、必要に応じ、行政処分に係る地元説明会を行うこととした。

2 廃棄物処理法を補完する条例の制定

(1) 条例制定の考え方

 岩手県では、こうした事件からの教訓を契機として、本県独自の「循環型地域社会の形成に向けた制度的整備に関する研究会(座長 南 博方 岩手県立大学教授)」等での研究や、北東北3県の実務担当者によるワーキンググループでの検討を踏まえ、循環型地域社会形成のための関係3条例を2002年12月定例県議会において制定した。
1)「いわて資源循環型廃棄物処理構想」の目指す循環型地域社会の形成
 本県では、もともと、岩手県における循環型地域社会形成のための独自のビジョンとして、2001年3月に、「廃棄物の自県(圏)内処理の推進」等を骨子とする「いわて資源循環型廃棄物処理構想」を策定し、望ましい循環型社会のあり方を掲げているが、これを実効性ある形で進めるため条例を整備する必要があった。

2)青森県境不法投棄事件を教訓にした不法投棄の未然防止
 前述の青森・岩手県境不法投棄事件を教訓に、同様な事件の発生を未然に防止するために、現行法令だけでは十分に対応できない、廃棄物の発生抑制から適正処理にいたる制度を条例により整備する必要がある。

3)経済的手法を活用した産業廃棄物対策の推進
 増加し続ける産業廃棄物の発生を抑制し、再生利用を促進するとともに、県外からの無秩序な産業廃棄物の流入を抑制するため、当時の法令に加え、経済的手法も活用した産業廃棄物税や県外産廃の搬入に対する協力金の仕組みを条例により整備する必要があった。

4)北東北三県連携した広域産業廃棄物対策の推進
 大都市が排出する産業廃棄物の不法投棄について同様な悩みを持つ、青森、秋田、岩手三県が広域的な産業廃棄物対策の推進について、北海道・北東北知事サミットで合意されており、これを具体化させる条例を整備する必要があった。

(2) 条例の主な内容

1)循環型地域社会の形成に関する条例
ア 産業廃棄物の自県(圏)内処理の原則
 「地域で出たゴミは、その地域で処理する」という地域ゼロエミッションの考え方に基づき「産業廃棄物の自県(圏)内処理の原則」を明確にし、次の制度を条例化した。
 ア) 県内事業者に対して県内又は近隣地域(当面は青森県、秋田県を想定)で産業廃棄物を処理する努力義務を定めた。
 イ) 県外から産業廃棄物を岩手県内に搬入しようする排出事業者は、県に対して、その性状、量などを事前協議することとした。
   (手続きは「県外産業廃棄物の搬入に係る事前協議等に関する条例」で制定)
    
イ 再生資源利用認定品認定制度
 とかく市場性の低いリサイクル製品の流通を促進することにより、廃棄物の再生利用を促進するとともに、併せてリサイクル産業の振興を図るため、一定の基準に合致したリサイクル製品を認定し、県が率先使用するほか、県民、事業者にその情報を公開することとした。

ウ 優良な産業廃棄物処理業者の育成制度
  優良な産業廃棄物処理業者の育成を図るため、次の制度を条例化した。
 ア)  産業廃棄物処理業の経営の健全化に係る公益法人を、産業廃棄物処理業者育成センターとして知事が指定する。
 イ)  同センターは、産業廃棄物処理業者の格付制度と、業者の事故時の対応等に係る保証金制度を、知事の指導監督のもとに運営する。
 なお、「格付制度」は、許可業者を、第3者機関が遵法性、事業の安定性などの観点から格付けし、業者選択の参考とするものであり、「保証金制度」は業者が予め保証金をセンターに納付し、不適正処理や事故等の廃棄物の原状回復費用に充当するものである。

エ 有価物偽装の不適正処理対策
 有価物を偽装した不適正処理対策として、屋外に放置されたり、地中に埋設されている有価物を含む廃棄物等の適正保管義務を定めるとともに、環境汚染の可能性の高い場合の水質・土壌や掘削の調査命令、汚染等が確認された際の措置命令などについて定めた。

オ 許可取消し等の点数制
 産業廃棄物処理業者による不適正処理の抑止、行政処分の基準の明確化などの観点から、許可取消し等への点数制を導入することとした。

カ 原状回復の確保等のための制度
 排出事業者の責任の内容を明確化することにより、原状回復の確保を図るため、次の制度を条例化した。
 ア)  排出事業者が廃棄物処理を委託する際の、業者の処理能力の確認義務、年に一度以上の実地の処理状況確認義務を定めた。
 イ) 不適正処理された産業廃棄物に関与した業者や土地提供者について、報告や措置義務を定め、特に悪意の収集運搬業者に対して措置命令を定めた。

2)県外産業廃棄物の搬入に係る事前協議等に関する条例
 この条例は、大都市圏からの産業廃棄物に課題を持つ北東北三県が、広域的に行うことが望ましい制度として、ほぼ同じ内容を条例化した。

ア 県外産業廃棄物の搬入事前協議の義務化
 循環型地域社会の形成に関する条例に定める「産業廃棄物の自県(圏)内処理の原則」に基づき、一定の基準を定め、県外から産業廃棄物を岩手県内に搬入しようする際の事前協議に関する手続きを定めた。
    
イ 県外産業廃棄物の搬入に伴う環境保全協力金制度
 県外産業廃棄物の搬入に伴う環境リスクの低減を図り、県外の排出事業者による本県の環境保全施策への協力を求めるため搬入に際して一定の環境保全協力金(50~500円/トン)を、搬入事前協議の際に併せて行政契約により求めることとした。
 なお、環境保全協力金の使途については、岩手県の場合は、廃棄物の減量化・リサイクル促進のための環境産業の育成に関する施策に充てることとした。

3)岩手県産業廃棄物税条例
 「岩手県産業廃棄物条例」は、産業廃棄物に共通した課題を持つ北東北三県が、産業廃棄物の減量化・リサイクル促進のために同様な制度として条例化している。

ア 埋立て段階課税方式
 条例の検討段階においては、三重県で採用されている排出段階課税方式と、岡山・広島・鳥取の中国三県が採用している埋立て段階課税方式等が検討されたが、免税点がなく全ての排出事業者が対象となり課税方式が公平であること、制度が簡素であること、三県間での移動を伴う中間処理に伴う二重課税が回避できること、リサイクルへのインセンティブが働くことなどから、最終的に最終処分場への搬入量に応じて課税し、最終処分業者が特別徴収義務者として税を一時預かり、県に納付する方式で行うこととした。

イ 税収の使途
 税収の使途としては次のような施策に充当することとした。
ア) 産業廃棄物の減量化・リサイクル促進のための環境産業の育成
イ) 産業廃棄物の適正処理の指導監視
ウ) 優良な産業廃棄物処理業者の育成
エ) 廃棄物の減量化・リサイクルの促進を図るための普及・啓発等

3 県境不法投棄の検証

(1)はじめに

 本県では、2002年10月から2003年3月までの間、自県の本件に対する従前の対応の当否を検証し、その結果を県民に報告して県費投入の理解を得ると共に、再発防止策を講ずる目的で、検証委員会をそれぞれ開催し、報告書をとりまとめた。このように、不法投棄の行為者(原因者)に対する監督責任を負っている自治体が、従前の監督権の行使の当否を検証する試みは、前例のないものと考えている。
 このような検証がなされたこと自体は評価されており、環境省も、2003年10月、特措法3条の定める基本方針に関し、都道府県が特定支障除去等事業を行うにあたっては、当該自治体に対し、自らの従前の対応などについての検証を行うべきものと定めており、この検証作業は、その先駆的役割を担ったと言える。

(2)検証委員会

 本県の検証委員会は、検証の対象時期を、1995年9月(青森県から不法投棄の通報がなされた時点)から2000年8月(岩手県が三栄化学に対する収集運搬業の許可を取り消した時点)までとした。
 同委員会は、検証すべき行政責任を、個々の県職員個人の行為ではなく、岩手県の組織全体としての行政責任とし、かつ、検証の対象を、①1996年11月に行った三栄化学に対する収集運搬業の停止処分、②その後のフォロー、③2000年2月に行った収集運搬業の更新許可、④その後の措置命令や許可取消処分という行政としての個々の監督権の行使に特定した上で、①につき妥当、②につき違法ではないがもう少し厳しく監視すべきであった、③につき違法、④につき妥当、と判断した。
 再発防止策としては、関係機関との連携強化や職員研修、監視や処分などの対応の徹底、廃棄物処理法の不備を補うための条例の制定などが提言された。この中では、県の権限行使を違法と判断した③が、特に注目、評価されている。同委員会は、この時点(2000年2月)では、すでに刑事事件の強制捜査が着手されており、不法投棄の実態を県も相当に把握していたことから、不許可処分や許可保留、事情聴取などの調査義務を尽くすなどの選択肢を取り得、かつそうすべきであったのに、怠ったものであることを理由に、違法であると判断したものである。
 なお、本県は2003年9月に今回の事件に関連して、不法投棄事件の発生が疑われた時期に、原因法人に対し廃棄物処理業の更新許可処分にしたことに関して、当時の幹部職員3人を戒告・訓告の処分としている。

※ 3 県境不法投棄の検証 については、日本弁護士連合会・公害対策・環境保全委員会の
「青森・岩手県境大規模不法投棄事件に関する調査報告書」、(2004年6月)の17~18ページを引用した。