2.発覚前後の経緯


(1)事件の発端

 事件の原因者である産廃処理業者・三栄化学工業㈱(三栄化学)は、1998年頃から現場で関連会社の三栄興業㈱(三栄興業)にバーク(樹皮)、産業廃棄物である燃え殻、汚泥などを混合したもの(中間処理)を売り、三栄興業はその堆肥販売を業としていた。ちなみに堆肥の販売実績は確認されていない。   
 1998年12月、岩手県農政部に三栄興業から肥料取締法に基づく特殊肥料製造の届出があり立入調査したところ、堆肥原料である産業廃棄物が野積みされ、悪臭や汚水流出など環境汚染があるとして通報があり、1999年1月、二戸(にのへ)保健所が廃棄物処理法に基づく現地調査、報告徴収を開始し継続的に監視していった。
 当初、三栄興業側は、当該堆肥は三栄化学の中間処理物を有償で購入したもので、廃棄物ではなく有価物であり廃棄物処理法上問題ないと主張していた。

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     固形化廃棄物の投棄状況

(2)刑事事件の摘発(圧縮固形化廃棄物不法投棄事件)

 1999年夏、本県は岩手県警察本部とともに、夜間、埼玉県の産廃処理業者・縣南衛生㈱から排出された木・紙くず、廃プラスチック等の圧縮固形化廃棄物(RDF様廃棄物)を不法投棄する行為を繰り返していた事実を突き止め、同年11月、青森・岩手県警合同捜査本部は廃棄物処理法違反として強制捜査に入った。                    
 2000年5月、合同捜査本部は、RDF様廃棄物約8,000トンを不法投棄したとして、法人である三栄化学・縣南衛生とそれぞれの代表者2名を起訴した。               
 2001年5月、盛岡地方裁判所は、2法人に対して罰金2,000万円、縣南衛生の代表者を懲役2年6月(執行猶予4年)、罰金1,000万円に処する判決を下した。
なお、事件の首謀者である三栄化学の代表者は起訴後、保釈中に自殺し公訴棄却となったため、これにより事件の全容解明が極めて困難になった。

 

(3)揮発性有機化合物(VOC)、ダイオキシンを含む廃棄物の大量不法投棄事件への展開

 この後の調査により、場内から廃油入りドラム缶が発見され、事件は当初のRDF様廃棄物の不法投棄から、多様な化学物質を含む廃棄物による大量不法投棄事件へと、その性格が変っていくことになる。
 2000年5月に現場から採取した廃棄物を分析したところ、VOC、鉛、カドミウムなどが検出され、現場内のたまり水及び土壌を検査したところ、ダイオキシン類の環境基準の82倍の濃度で検出されたが、地下に埋められている廃棄物の全容は不明であった。
 そこで、現場内のVOCの分布実態を調査するため、2000年秋に、環境庁(現環境省)の指針に基づく表層土壌ガス調査を行ったところ、高濃度ガス領域が7領域特定され、VOCにより広範囲に汚染されていることがわかった。
 その後、ボーリング調査、地下水流向流速調査、トレンチ掘削調査により不法投棄の全容解明を行い、2002年2月に岩手県側の不法投棄物が15万立方メートル(推定)になると結論した。
 これらの廃棄物は主に縣南衛生が処理委託を受けた首都圏の産業廃棄物とみられ、多種多様な産業廃棄物による複合的な環境汚染事案であることがわかった。

(4)行政の対応

1)警察当局、青森県との連携
 本事件の解明には、警察当局との早期からの情報交換と密接な連携が寄与した。また、岩手・青森両県が県の枠を超えて連携しながら対応していることも要因と考えられる。                     
 これは、現場が両県の県境地域であり、一体の土地として不法投棄され汚染された状況であり、両県は連携して全容解明調査を行い、データを共有しながら、措置命令や行政処分等の対応策を講じた。   
                                                                   


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2)関係者個人をも含めた措置命令         
 本県は廃棄物処理法に基づく措置命令の制度を積極的に活用し、役員個人にも法的義務を課した。
 現場を所管する二戸保健所長が、2000年6月、廃油入りドラム缶の発見以降、関係の4法人及びその役員個人6名に対し、措置命令を出した。特に、刑事事件においても、不法投棄の実行犯として2法人とその代表者2名が起訴されており、県では不法投棄の意思決定や実行に実質的決定権を 有する者として法人役員個人に対しても措置命令をかけた。                             
 この措置命令により、法人・個人の連帯債務として原状回復義務の責任を負うこととなった。              
                           
3)原因者に対する原因解明調査の指導
 本県は、原因者責任の原則に基づき、廃棄物の調査、撤去等を全額原因者の負担で行うよう指導した。すなわち、これまで現場から発見された廃油入りドラム缶の処理、土壌ガス調査、ボーリング調査、トレンチ掘削調査などを行っているが、これらは、県の指導のもと三栄化学が専門業者に委 託して行った。

4)原因者に対する民事保全法による財産保全措置
 本県は原因者責任の考え方をさらに徹底させる観点から、三栄化学の財産の一部(約1億4千8百万円)を民事保全法に基づき仮差押えをした。
 他県での大規模不法投棄事件では、実態調査や原状回復に長時間を要し、債権額の確定時点では、原因者の財産が散逸し、ほとんど費用の回収がなされていない例がある。
 本件仮差押えは、原因者による原状回復義務の履行の担保を少しでも目に見える形で示し、県民の不安をできるだけ回避する必要があるとの判断からなされた。
 当初、行政上の義務履行のために、民事的な財産保全の手法が適用できるかについては議論もあったが、学者・弁護士の指導により、2001年2月に盛岡地方裁判所に財産仮差押の申立をしたところ、決定がなされたものである。
 当時の廃棄物処理法では、原因者責任の原則が規定され、罰則等は強化されているものの、その履行担保は、必ずしも十分とはいえない状況であった。民事的手法の活用により、迅速かつ実効力のある実質的な履行確保を図ることは、当時の状況においては有効な手法だったと考えられる。

5)県費による詳細調査の実施
 本県は、前述のとおり全容解明調査に取り組んだが、原因者である三栄化学が清算法人、縣南衛生が破産法人となったことから、2001年実施の現場地盤調査、地下水の賦存状況調査、廃棄物の詳細等調査は、県費により実施した。
 この調査結果に基づき、合同検討委員会・技術部会から意見をいただきながら、廃棄物撤去手法や廃棄物撤去時の汚染拡散防止対策等を決定し、原状回復事業に取り組むこととなった。

6)両県合同検討委員会による現場の環境再生への取組み
 青森・岩手両県は、各県が廃棄物処理法の措置命令等により原因者等に調査・撤去等を命じてきたが、不法投棄は岩手・青森両県に跨り一体の事業場となっていることから、「現場は一つ」の認識に立ち、「青森・岩手県境不法投棄事案に係る合同検討委員会」(委員長 南 博方 岩手県立大 学教授)を設置した。
 当委員会では、「住民の健康被害防止と安心感の醸成」を第一に考え、両県のこれまでの調査結果をすり合わせ、汚染の除去と汚染拡散防止対策について、技術的・社会的課題を整理し、最終テーマである「現場の環境再生」に向けて取り組んだ。
 また、当委員会の下に技術部会(部会長 古市 徹 北海道大学大学院教授)を設置し、両県が行う調査、不法投棄現場の原状回復事業等について技術的な検討を行った。
 2003年2月8日に開催された第3回合同検討委員会では、次の事項が確認された。

 ① 両県は、生活環境上の支障の除去と土の汚染の除去を実施する。
 ② 原状回復の定義(程度)は、はっきりとしたものがなく、両県の間でも差異があるので、今後住民の意見も踏まえながら整理する。
 ③ 原状回復措置は、現場の青森県側と岩手県側では、投棄された廃棄物の種類、量、有害性、投棄形態等が異なることから、それぞれの特性に応じた最も効果的な対策を講じる。
 ④ 両県は、次回委員会には、それぞれ具体的な原状回復の実施計画を示すこととする。
 ⑤ 原状回復後、環境再生を行うが、その際には、住民の意向等も踏まえ検討を行う。


開催日時     合同検討委員会       技術部会
2002年6月15日 第1回合同検討委員会      -
2002年8月24日 第2回合同検討委員会      -
2002年11月9日     -          第1回技術部会
2002年12月11日     -          第2回技術部会
2003年1月14日     -          第3回技術部会
2003年2月8日  第3回合同検討委員会      -
2003年3月11日     -          第4回技術部会
2003年4月20日     -          第5回技術部会
2003年6月28日 第4回合同検討委員会      -

参考
青森・岩手県境不法投棄事案に係る合同検討委員:資料
合同検討委員会技術部会:資料

(5)国の対応

 国は、1998年6月以前に不法投棄された産業廃棄物(特定産業廃棄物)に起因する生活環境の保全上の支障の除去やその発生の防止を図るため、「特定産業廃棄物に起因する支障の除去等に関する特別措置法案」を国会に上程した。
 その後、青森・岩手両県は、環境大臣が定める基本方針に基づき実施計画を定め、特別措置法のスキームで当不法投棄の原状回復に取り組むこととなる。

(6)事件からの教訓

 この事件を制度的側面からみた場合、次のような教訓が指摘される。これらは、いずれも大量生産・大量消費の現代社会のもつ歪みから生じたものであり、産業廃棄物対策に対する総合的な条例検討の契機になったものである。

1)「地域で出た廃棄物は、その地域で処理する」体制を整備する必要がある。
2) 廃棄物の発生抑制、再利用、再生利用を進める制度整備が必要である。
3) 優良な廃棄物処理業者の育成を進める制度が必要である。
4) 有価物を偽装した廃棄物の不法投棄への法的対応が必要である。
5) 不法投棄の原状回復に公金を極力投入しない仕組みが必要である。